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【医師論文解説】老後の幸せ、男女で大違い!? 結婚が与える意外な影響とは【OA】


背景:

カナダの人口高齢化が急速に進んでいます。2016年の国勢調査では、初めて65歳以上の高齢者の数(590万人)が14歳以下の子どもの数(580万人)を上回りました。2021年には、高齢者人口は700万人に達し、カナダ人の約5人に1人が高齢者となっています。

同時に、カナダの家族構造も変化しています。家族の結束と社会的支援が成功した老いの重要な要因であることが研究で示されていますが、カナダの平均世帯人数は1901年の5.0人から2016年には2.4人に減少しました。一人暮らし世帯の割合も1951年の7%から2016年には28%に増加しています。

このような背景から、本研究ではカナダ人高齢者の結婚歴と「成功した老い」の関係、特に性別による違いを調査しました。

方法:

本研究では、カナダ縦断的高齢化研究(CLSA)のデータを使用しました。CLSAは約50,000人の45歳から85歳のカナダ人を対象とした大規模な縦断研究です。

研究対象者は、ベースライン時に60歳以上で、初回調査時に「成功した老い」の基準を満たしていた7,641人(男性3,926人、女性3,715人)です。

「成功した老い」の定義には、身体的健康(日常生活動作に制限がない等)、心理的・精神的健康(不安やうつがない等)、社会的健康(十分な社会的支援がある)、主観的健康感(自己評価による健康状態が良好)の4つの基準を用いました。

結婚歴は、未婚、継続的に既婚、継続的に死別、継続的に離婚・別居、未婚から既婚に変化、既婚から未婚に変化、その他の7つのカテゴリーに分類しました。

統計分析には、二項ロジスティック回帰分析を用い、年齢や性別、その他21の要因を調整して分析を行いました。

結果:

  1. 全体の結果:

    • 「成功した老い」の割合は70.5%でした。

    • 継続的に結婚している人(調整オッズ比[aOR]=1.60)や調査期間中に結婚した人(aOR=2.51)は、未婚の人と比べて「成功した老い」を達成する確率が有意に高くなりました。

    • 社会的孤立状態にない人は、「成功した老い」を達成する確率が高くなりました。

    • 子どもの有無は「成功した老い」との関連が見られませんでした。

  2. 性別による違い:

    • 男性の結果:

      • 継続的に結婚している男性(aOR=2.56)、継続的に死別している男性(aOR=2.50)、調査期間中に結婚した男性(aOR=3.83)は、未婚の男性と比べて「成功した老い」を達成する確率が有意に高くなりました。

      • 継続的に離婚・別居している男性は、未婚の男性と有意な差が見られませんでした。

    • 女性の結果:

      • 既婚から未婚に変化した女性(aOR=0.48)は、未婚の女性と比べて「成功した老い」を達成する確率が有意に低くなりました。

      • その他の結婚歴カテゴリーでは、未婚の女性との間に有意な差は見られませんでした。

  3. 共通の要因:

    • 男女ともに、若い年齢(55-79歳)、社会的孤立状態にないこと、激しいスポーツへの参加、睡眠問題がないことが「成功した老い」と関連していました。

  4. 性別特有の要因:

    • 男性: 肥満でないこと、非喫煙、心臓病や骨粗しょう症がないこと

    • 女性: 貧困ライン以上の収入、中程度のスポーツへの参加、関節炎がないこと

議論:

本研究では、「成功した老い」の新しい定義を提案し、それによると70.5%の高齢者が「成功した老い」を達成していました。これは、従来の研究者による厳格な定義(約3分の1)と高齢者自身の主観的な評価(92-94%)の間を取る、より現実的な割合となっています。

結婚歴と「成功した老い」の関係には、明確な性差が見られました。男性では、未婚者と比較してほとんどすべての結婚歴カテゴリーで「成功した老い」の確率が高くなりましたが、女性では結婚歴による大きな違いは見られませんでした。

これらの結果は、既存の研究結果と一致しており、結婚が健康状態や長寿に与える影響は男性でより大きいことを示唆しています。しかし、「成功した老い」の定義が研究によって異なるため、直接的な比較は難しいのが現状です。

結論:

本研究により、結婚歴が「成功した老い」に与える影響には明確な性差があることが明らかになりました。特に男性において、結婚や再婚は「成功した老い」と強い関連がありました。一方で、社会的孤立を避けることは男女ともに重要な要因でした。

これらの知見は、高齢者支援政策や社会福祉実践に重要な示唆を与えるものです。特に、未婚の男性や配偶者と死別・離婚した高齢者に対する支援の必要性が示唆されました。

文献:

Ho, Mabel, et al. "The association between trajectories of marital status and successful aging varies by sex: Findings from the Canadian Longitudinal Study on Aging (CLSA)." International Social Work (2024): 00208728241267791.

この記事は後日、Med J SalonというYouTubeとVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。

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二項ロジスティック回帰分析とは

二項ロジスティック回帰分析は、結果変数が2つの値(例:成功/失敗、はい/いいえ)しか取らない場合に使用される統計手法です。本研究では、「成功した老い」を達成したかどうか(達成/非達成)が結果変数となっています。

この分析の目的:

  1. 複数の説明変数(今回の場合、結婚歴や年齢、性別など)が結果変数(「成功した老い」の達成)にどのように影響しているかを調べること。

  2. ある事象(「成功した老い」の達成)が起こる確率を予測すること。

主な特徴:

  1. オッズ比: 結果は主にオッズ比で表されます。オッズ比が1より大きければ、その要因は結果の発生確率を高め、1より小さければ低めることを示します。

  2. 調整: 複数の要因の影響を同時に考慮し、それぞれの独立した効果を推定できます。

  3. 非線形性: 説明変数と結果変数の関係が非線形であっても適用可能です。

この分析により、結婚歴や他の要因が「成功した老い」の達成にどの程度影響しているかを、数値(調整オッズ比)で示すことができました。例えば、継続的に結婚している人が未婚の人と比べて1.60倍「成功した老い」を達成しやすいという結果は、この分析手法によって得られたものです。

この手法を用いることで、複雑な要因が絡み合う「成功した老い」の達成について、より精密な分析が可能になりました。

所感:

本研究は、「成功した老い」という複雑な概念に新たな定義を提案し、大規模な縦断研究データを用いて詳細な分析を行った点で非常に価値があります。特に、結婚歴と「成功した老い」の関係に明確な性差があることを示した点は、高齢者医療や福祉の実践に重要な示唆を与えるものです。

しかし、いくつかの限界点も考慮する必要があります。まず、研究対象者の教育水準が非常に高く、カナダの一般的な高齢者層を代表しているとは言い難い点です。また、結婚歴の変化と「成功した老い」の因果関係を明確に示すことはできていません。

今後は、より長期的な追跡調査や、結婚の質や社会的関係の詳細な分析が必要です。また、文化的背景の異なる他の国々でも同様の研究を行い、結果を比較することで、より普遍的な知見が得られるかもしれません。

最後に、この研究結果を踏まえ、高齢者の多様な背景や需要に応じた、きめ細かな医療・福祉サービスの提供が求められると考えます。特に、単身男性高齢者や配偶者と死別・離婚した高齢者に対する社会的支援の充実が重要な課題となるかもしれません。

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バーチャル医療研究会編集部
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