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【医師論文解説】聞こえの未来を予測する:耳硬化症のCT分類法対決【Abst】


背景:

耳硬化症は、中耳の骨が異常に成長することで引き起こされる難聴の一種です。

この疾患の治療には、アブミ骨手術が広く行われていますが、その成功率は患者の状態によって大きく異なります。そこで、手術前にCTスキャンを用いて耳硬化症の進行度を評価する分類法が開発されてきました。その中でも、VeillonとSymons-Fanningの分類法が広く知られていますが、これらの分類法と手術成績の関連性については、まだ十分な研究がなされていませんでした。

方法:

本研究は、2017年1月から2022年12月までの間に、ある三次医療機関で耳硬化症によるアブミ骨手術を受けた成人患者を対象とした後ろ向き観察研究です。

合計87人の患者、97耳が研究対象となりました。

研究者たちは、VeillonとSymons-Fanningのそれぞれの分類法を用いて患者のCT画像を評価しました。そして、これらの分類結果と、以下の項目との関連性を分析しました:

  1. 手術前後の純音聴力検査データ

  2. アブミ骨手術の成功率(気骨導差の改善、気導聴力閾値が30dB以下になる割合)

  3. 術後の感音性難聴

結果:

  1. Symons-Fanning分類(SFC):

    • 術前の骨導聴力(p = 0.041)と気導聴力(p = 0.018)に関連性が見られました。

    • 術後の骨導聴力(p = 0.026)とも関連性がありました。

    • いずれも、放射線学的ステージが高くなるほど、聴力閾値が上昇(悪化)する傾向がありました。

  2. Veillon分類(VC):

    • 術後の気導聴力(p = 0.045)と関連性が見られました。

    • 放射線学的ステージが上がるにつれて、気導聴力閾値が上昇(悪化)する傾向がありました。

  3. 両分類法共通:

    • VC(p = 0.032)とSFC(p = 0.023)の両方で、放射線学的ステージが高くなるほど、術後の気導聴力閾値が30dB以下になる割合が減少しました。

議論:

この研究結果は、VeillonとSymons-Fanningの分類法が、それぞれ異なる側面で耳硬化症の手術成績予測に役立つ可能性を示しています。

Symons-Fanning分類は、術前の聴力状態と術後の骨導聴力を予測するのに特に有用であることが分かりました。これは、この分類法が耳硬化症の進行度をより正確に反映している可能性を示唆しています。

一方、Veillon分類は術後の気導聴力を予測するのに優れていました。これは、Veillon分類が手術による改善の可能性をより適切に評価できる可能性を示しています。

両分類法とも、術後の気導聴力閾値が30dB以下になる確率と関連していたことは、どちらの分類法も手術の全体的な成功率を予測する上で有用であることを示しています。

結論:

Symons-Fanning分類は術前の気導・骨導聴力と術後の骨導聴力の予測に、Veillon分類は術後の気導聴力の予測に、それぞれ優れていることが明らかになりました。両分類法とも、術後の聴力改善の程度を予測するのに有用です。

これらの結果は、耳硬化症の治療計画を立てる際に、両分類法を組み合わせて使用することの有用性を示唆しています。患者の術前評価や手術成績の予測、さらには患者へのインフォームドコンセントの際にも、これらの分類法を活用することで、より精度の高い情報提供が可能になると考えられます。

文献:Pinto, João Viana et al. “Comparison Between the Veillon and the Symons-Fanning CT Classification Systems for Otosclerosis.” Otology & neurotology : official publication of the American Otological Society, American Neurotology Society [and] European Academy of Otology and Neurotology vol. 45,9 (2024): e618-e623. doi:10.1097/MAO.0000000000004311

この記事は後日、Med J SalonというYouTubeとVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。

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VeillonとSymons-Fanningの分類法の解説:

Veillon分類(VC):

Veillon分類は、1997年にフランスの放射線科医Jean-François Veillonによって提案された耳硬化症のCT分類法です。この分類法は、耳硬化症の病変の広がりと部位に基づいて、以下の4段階に分類します:

  • Stage 1: 前庭窓周囲に限局した病変

  • Stage 2: 蝸牛殻に及ぶ病変

  • Stage 3: 蝸牛全体に及ぶ病変

  • Stage 4: 内耳道底に及ぶ病変

この分類法は、病変の進行度を詳細に評価できる利点がありますが、判定にやや専門的な知識が必要とされます。

Symons-Fanning分類(SFC):

Symons-Fanning分類は、2005年にSymonsとFanningによって提案された比較的新しい分類法です。この分類法は、CT画像上の耳硬化症の特徴的な所見の有無に基づいて、以下の4段階に分類します:

  • Grade 1: 正常または微細な前庭窓周囲の脱灰

  • Grade 2: 明確な前庭窓周囲の脱灰

  • Grade 3: 広範囲の脱灰(蝸牛殻や半規管に及ぶ)

  • Grade 4: はっきりとした広範囲の脱灰(内耳全体に及ぶ)

この分類法は、比較的単純で再現性が高いとされており、臨床現場での使用が容易であるという利点があります。

これらの分類法は、耳硬化症の進行度を評価し、手術の適応や予後を予測する上で重要な役割を果たしています。本研究では、これら2つの分類法の臨床的有用性を比較検討しています。

所感:

本研究は、耳硬化症の画像診断と手術成績の関連性について、重要な知見をもたらしました。特に、二つの主要なCT分類法の特性を明らかにしたことは、臨床現場での意思決定に大きな影響を与える可能性があります。

しかし、この研究にはいくつかの限界もあります。まず、単一施設での後ろ向き研究であるため、結果の一般化には注意が必要です。また、サンプルサイズが比較的小さいことも、結果の解釈に影響を与える可能性があります。

今後は、多施設での前向き研究や、より大規模なサンプルを用いた研究が求められます。さらに、これらの分類法を実際の臨床決定に組み込んだ場合の長期的な患者予後への影響を調査することも重要でしょう。

また、人工知能(AI)技術の発展に伴い、これらの分類法をAIと組み合わせることで、さらに精度の高い予測モデルを構築できる可能性もあります。このような新たなアプローチも、今後の研究課題として期待されます。

総じて、本研究は耳硬化症の診断と治療の個別化に向けた重要な一歩であり、今後のさらなる研究の基盤となる価値ある成果だと言えるでしょう。

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バーチャル医療研究会編集部
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