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ヤマトノミカタ#10「光る七福神」

「光る七福神」
テレビ番組の撮影助手として、番組ロケで奈良県下を巡ったのは今から40年前。
今と当時を比べて村の様子が最も変わってしまったのが天川村だと思う。
村の雰囲気というより、天川村にしかない空気が消えてしまった。
ロケでは修験道の山伏が宿泊する旅館に泊まった。天川村洞川にはそのような旅館がいくつもあるが、今では山伏から一般の旅行者が主な宿泊客となり、天川村の洞川温泉は人気の観光スポットになっている。
陸の孤島、隠れ里、そんなイメージだった天川村が、トンネルやバイパスの道路整備により、アクセス便利な身近な観光地となった。
現在は若い人たちが新しいお店をオープンするなど、新たな賑わいを見せている。
生まれ変わった天川村、私が40年前に感じた天川村の空気はもう感じられない。
天川村で初めてロケをした時のことは今でも鮮明に覚えている。トンネルが開通する前は狭くて曲がりくねった峠道をひたすら進む。やっとの思いで到着した撮影クルーを待っていたのは、摩訶不思議な出来事の連続。
天川弁財天で撮影した円空仏の映像を再生するとまばたきしていたり、ロケを続けていると時間の感覚がおかしくなったり、天川村全体がまるで異空間のようだった。
その不思議な思い出の中で、最も衝撃的だったのが「光る七福神」
ロケではたくさんの村人のお世話になった。村の若い人と一緒に食事をした時に「光る七福神」の話を聞いた。
「夜に村を歩いていると、遠くからぺちゃくちゃと話し声が聞こえる。声のする方を見ると数人が話しながらこちらへ近づいてくる。よく見ると金色に光る七福神ではないか。人間のサイズよりもひと回り小さな七福神が天川村の闇の中に現れる」
にわかには信じられない話をお酒の席ではあるが、よそ者である撮影クルーに話してくれたのだ。
更に驚くことに、その七福神を目撃した村人は少なくなく、誰もが知っているという。
さすがに信じられなかった。冗談を言って私たちを驚かせ、それを見て楽しんでいるのかとも思ったが、誠実そうな村人がそのようなことをするようには思えなかった。
その話以外にも深夜に村の通りを牛車が通るという。私は子供の頃に読んだ妖怪本に書かれていた百鬼夜行を連想した。
村の人が語る七福神や牛車の話。
今なら酒の席でのネタ程度に聞き流すだろうが、当時の天川村では、毎晩のように七福神が現れ、牛車が村を駆け抜けても信じられるような雰囲気があった。
現在、SNSを検索しても天川村で七福神を目撃したという投稿にはヒットしない。
天川村から七福神は消えて、観光客で賑わっている。姿形は違えども、どちらも福の神であるのだろう。今も昔も神仏と最も近い村、それが天川村なのだ。

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保山耕一
皆様からのサポートは映像作家として奈良を撮影する事に限って活用させていただきます。 撮影での出来事や思いをnoteに綴ります。 撮影のテーマは「奈良には365の季節がある」