初投稿|キジバトの雛が孵った日
キジバトの雛が孵った。
我が家の小さな庭にはその面積にそぐわないツルを伸ばし放題の藤の木がある。毎年、成長期には日に数十センチも伸びるツルと格闘し続け、持て余してもいる。
見て見ぬ振りをしていたら、窓枠にツルが入り込み破壊されたこともある。窓を丸々交換という痛い出費となった。
それでも、花の頃の美しさは捨てがたく、庭を占領されるままにしている。何とも悩ましい木だ。
秋だというのにまだ暑さの残る頃、玄関を出たわたしの前をキジバトが余裕で歩いていた。キジバトはわたしを気にも掛けない。強者だ。立ち止まってはキョロキョロと見回し、落ちている小枝を見繕っている。
手頃な小枝を咥えると、ワサッと飛び立った。すぐそこの藤の枝に止まる。どうやら巣作りを始めているようだ。
そこ!?
心の中で叫ぶ。
小柄なわたしの目線の高さ、ほんの少し奥まっているとはいえ、これ見よがしの営巣だった。
実は2ヶ月ほど前のこと、
玄関を出ると、郵便受けの投函口から突き出ている枯れ草に気づいた。不思議に思い取り出し口を開けると、あきらかに何者かが営巣している模様。
ここ!?
その時も心の中で叫んだのだった。
しばらく屋内から観察すると、投函口からが出入りするスズメを確認した。
家を建てた時に木工の得意な友人が手づくりしてくれた郵便受け。確かに年季がはいってきて、いい感じに巣箱風ではある。
とはいえ、狭すぎじゃない?
郵便受けは巣箱ほどの奥行きを持たない。しかも、朝から強い陽が差し込む我が家の玄関。郵便受けの中もさぞやと思われる。
大丈夫かと思いつつ、熟考した結果、取り出し口が開いてしまわないようにマスキングテープで固定し、別途、空き箱を臨時の郵便受けとして玄関前に置いた。
以降、郵便屋さんも宅配のおじさんも、近所のおばちゃんたちも、そおっと来て静かに去って行く日々が続いた。妙な連帯感が生まれていた。
スズメは産卵に約5日、抱卵約12日ぐらいらいで雛が孵るらしい。だが、しばらくするとスズメが出入りする姿は見られなくなった。ずいぶんと時が流れたので、取り出し口を開けてみた。
イネ科と思われる長い枯れ草を器用に積み重ね、仕上げにキジバトやオナガのものと思われる羽や羽毛を敷いて、心地良さそうに設えられた産屋。だが、スズメはここでの子育てを途中で断念したらしい。隅っこに小さな卵が2コ、置き去りにされていた。
そんな記憶も新し中、そんな簡易な巣で大丈夫ですか? と聞きたいくらい貧弱に見える巣に、翌日にはすでに一羽のキジバトが鎮座ましましていた。
日々玄関から出入りする度に、目線の高さにそっぽを向いた親鳥が一羽。雄と雌の区別はわからないが、どこかのタイミングで交代しているのかもしれない。東へ、南へ、西へ、見る度に頭を向ける方向は変わっている。
かれこれ2週間ほどが過ぎた。
朝夕涼しくなり、冷たい雨の日もそこそこの風の日も、座り続けている。
酷暑とスズメの巣作りから続き、子育ての邪魔になるかもを言い訳に、かれこれ3ヶ月あまり手入れを怠っている庭は、藤のツルもその下に繁殖する草花も生い茂り、もはや空き家の様相を呈している。
そして、ついにその日は訪れた。
朝、かつて藤のツルに窓枠を壊された掃き出し窓のカーテンを開け、足に絡みつく猫を抱き上げようと腰を屈めた拍子に、目の端に、なにやら動くものがある。
ん? ガラスと網戸越してはあるが、枝の狭間に、学校のリーダーズばりに激しく動く小さきモノを目視した。
雛が孵った。懸命に啼いている。
そういえば、我が家の猫も、いつもは窓際のキャットタワーのてっぺんで惰眠を貪っていたが、近頃は、床に座って熱心に藤の木を見上げている時間が長い。察していたのだろうか。
さて、ここ数日は、毎朝8時、猫と一緒に雛たちの食事の様子を観察する。雛の大きく開いた口に頭を突っ込んだまま一緒に上下する動きを見つつ、親鳥は息ができているのかと心配したりしている。
あと2週間ほどは、庭の手入れはできそうにない。
まぁ、いいか。寒さで面倒になる前には、間に合いそうだしね。
読んでいただけるのが楽しみです。スキいただけるとこれがまたうれしいです。感謝^^