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侍タイムスリッパー

2024/10/10投稿

ほめです。しかし残念な部分もあります。
ややこしいことは何一つ起こらず、それこそ時代劇における勧善懲悪を地で行くかのような、ストレートなタイムスリップ物。
手垢がつきすぎて誰もやらないネタが、枯れた技術の水平思考よろしく、驚くほどまともな仕上がりとなっています。
やはり主役である山口馬木也の演技力があればこそで、彼なしでは到底これほどの盛り上がりは見せなかったでしょう。
今年から始まった鬼平犯科帳の「本所・桜屋敷」での演技が記憶に新しいですが、本職を連れてきてパロディをやったら雰囲気出過ぎちゃいました、みたいな構図。
そりゃあ、説得力が違います。

惜しむらくは編集、効果音にチープなものが散逸され興が削がれるという点。
吉本新喜劇的な狙いでの演出だと思われるところは、相当にすべっているシーンが多いと言わざるを得ません。
狙い通りの演出であるのなら、それは首を傾げるといいますか。
もったいない。
こういった部分が、全体の完成度を低くしてしまっているのは残念でしかありません。
とはいえ、大いに笑える部分もあるにはあるのです。
心配無用ノ介に対する首のかしげ方や、指導する関本の斬られなどなど。
前述部分をのぞけば、なんとも情熱に満ちた作品であり、2時間強の上映時間も長いとは感じませんでした。

クライマックスにおける高坂新左衛門と風見恭一郎の殺陣、真剣でのにらみあいは白眉ですね。
血飛沫こそないものの、あの緊迫感と長すぎるほどの間に、椿三十郎を連想しました。
作中の制作陣のみならず、我々観客をも巻き込んで一種異様な空間、時間を作り上げている。
あの無音が成立するのは、そこに至るまで山口馬木也が作り出した世界観の説得力と、命のやり取りをするという死合いにおける集中力のなせる業。
まさに音が消え、目の前の相手しか見えないという状況であり、皆ゾーンに入らされるとでもいいますか。
そんな大一番から、その後かわされるやりとりを巧みに用いたオチ、このシークエンスは流石にしてやられた感がありました。

このジャンルにおいては福本清三抜きには語れません、太秦ライムライトからもう10年なんだなあ。


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