『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』第3話の物語分析
DCコミックス原作の映画『ザ・バットマン』のスピンオフドラマ『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』第3話について、分析しようと思います。今回は特に、ビクターというキャラクターに焦点を当てた回となっています。
ビクターの変化(キャラクターアーク)
「真の変化」をテーマにした物語
冒頭で印象的に映し出される「真の変化を」というチラシは、この話のテーマを象徴しています。
過去との葛藤
回想シーンでは、ビクターと父親との金銭を巡る対立が描かれます。父は現状に満足していましたが、ビクターはより多くを求めていました。
彼女との再会
恋人が犯罪への関与を諫めた際、ビクターは「父さんみたいだ」と言い、恋人が父親の価値観を代表していることが強調されます。ビクターは、父親や恋人が象徴する生き方を選ぶか、野心と金を追い求める道を選ぶかの分岐点に立たされます。
野心への傾き
ペンギンの下で働き始めたビクターは、警察への賄賂やレストランでの注文など、ある意味で「成長」を見せます。しかし、それは同時に悪意も取り入れ始めていることを意味していました。レストランでのペンギンとの会話では、「世の中はだまし合い」という価値観が示され、父親的な生き方では負け犬のままだと諭されます。
レストランでの会話で整備工は父の仕事だったことが分かります。冒頭でビクターは「整備工としてペンギンと知り合った」とソフィアに嘘をついたが、「整備工」という選択は父の側にいたい、つまり善良でいたいという彼の内心を象徴しています(もしくはまだこの時点では「前の彼」に戻れることを象徴)。
決断の時
ビクターは、恋人と共に街を出る計画を立てますが、ペンギンにそれを告げられずにいます。
しかし、ペンギンに携帯を見られ発覚すると、二人の間で感情的な対立が起こります。ペンギンは「俺は負け犬だったお前にたくさんのチャンスを与えてやった。なのにお前はずっと人質に取られている気分だったのか?」と詰め寄り、「お前はいい暮らしを望んだから残ったんだ。父親以上のな」と痛烈な言葉を投げかけます。
これに対しビクターは「違う。俺は情けない息子だ」と応じます。この言葉には、父のような人間になれていない自分への葛藤が込められています。しかしペンギンは「情けないのは頑張って働いても報われないことだ」と返し、実は情けないのはビクターの父親だと暗に示唆します。怒りを覚えたビクターは「クソ野郎」と反論。主人公は「負け犬の居場所はない。さっさと出て行け」と言い放ちます。
ビクターは主人公の車を盗み、恋人の待つバスターミナルへと向かいます。観客は彼が恋人の元へ走ることを期待しますが、彼は遠くから彼女を見送ることを選びます。
そして物語は思わぬ展開を見せます。ソフィアがペンギンへの信頼を取り戻しかけた矢先、ペンギンの裏切りを察知したマローニが現れ、二人に銃を向けるのです。このピンチを救ったのが、戻ってきたビクターでした。彼はマローニに車で突っ込み、主人公を救出します。
主人公は「戻ってくると思ってたぜ。よくやった。度胸があるな。もう後戻りできないぞ」と告げます。この行動は、ビクターにとって初めての暴力行為であり、しかもその相手はマフィアでした。この決定的な一線を越えたことで、もはや彼は「前の自分」には戻れなくなったのです。
ソフィアとペンギンの関係性の変遷
3話を通して、主人公とソフィアの関係が大きく変化します。
当初、二人は三合会との交渉のため手を組み、ついに息の合ったコンビとして機能し始めます。彼らは「ジョニーが後ろ盾」という同じ嘘をつき、見事に交渉のテーブルを勝ち取ることに成功します。
しかし、その協力関係は長くは続きません。ジョニーとルカの妻との不倫現場に踏み込んだ際、ソフィアは主人公を「私の部下」と呼び、上下関係を強調。これに主人公は表情を曇らせます。さらにジョニーから、主人公の報告でソフィアがアーカムに送られた過去を指摘され、ソフィアは主人公への信頼に疑問を持ち始めます。
そして決定的な亀裂が入るのが、(ここからは4話ですが)主人公がアルを殺したという事実をソフィアが知ることです。これにより、二人の同盟関係は完全に崩壊。ソフィアは誰も信用しないという決断を下すことになります。