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『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』第2話の物語分析

DCコミックスの同名のキャラクターをベースにした、『ザ・バットマン』のスピンオフ『ザ・ペンギン』。第2話では特に緻密な脚本術が光ります。今回は、その優れた脚本の仕掛けを詳しく分析していきましょう。

観客の共感を誘う巧みなキャラクター描写

冒頭、まず特筆すべき点は、反社会的な登場人物たちへの共感を引き出す手腕です。例えば、サイコパス的な性格で知られるソフィアが弟の遺体を前に取り乱すシーン。カウンセラーが必死に彼女を落ち着かせようとする場面を通じて、観客は思いがけず彼女への共感を覚えます。悪役でも人間味のある描写があれば、観客は共感することができます。

重層的なコンフリクトの展開

第2話の際立った特徴は、複数の異なるコンフリクトが重層的に展開される構造です。
幹部会議に見る複雑な対立構造
特に印象的なのが、ドロップが盗まれ、仲間が大勢死亡した直後の幹部会議のシーンです。このシーンでは多くの異なるコンフリクトが絡み合っています:

🟩 主人公対ジョニー:責任のなすりつけ合いという表面的な対立
🟩 主人公対全員:裏切り者である自分の正体をバレてはいけないという潜在的な緊張関係
🟩 ソフィア対ジョニー:「金の問題だけでなく、メンツの問題だ」と威勢よく主張するソフィアと、それに反発するジョニーとの対立
🟩 ボス対ジョニー:姪であるソフィアへの言動を咎めるボスとジョニーの対立
🟩 ソフィア対ボス:会議後、裏切り者捜しの時期や方法について「決めるのは俺だ」とソフィアを諭すボスとの対立

この場面が優れているのは、それぞれのキャラクターが複数のコンフリクトを同時に抱えながら、シーンが展開されている点です。
●物語全体を通じた連鎖的なコンフリクト
さらに、第2話全体を通して、主人公は次々と異なる種類のコンフリクトに追い込まれていきます:

🟩 1.ドロップ強奪計画の予期せぬ展開:

当初は後方の車に乗る予定が、突如として襲撃予定の前方の車に乗るよう指示される
この予期せぬ事態に対し、主人公は即座に適応を迫られる

🟩 2.裏切り者発覚の危機:

強奪により組織内に裏切り者の存在が露見
主人公は自身がバレる前にジョニーに罪をなすりつける必要に迫られる

🟩 3.マローニ側の組員救出という新たな課題:

主人公がスパイであることを知っているマローニ側の組員がソフィアの手に渡り、組員を救出しないといけない

🟩 4.二つの課題の同時進行:

いよいよ組員が吐いてしまうかもしれないタイムリミットが近づき
マローニの組員の処理を主人公が担当
ジョニーへの罪の押し付けを少年が担当

🟩 5.予定外の展開への対応:

少年の失敗により、主人公は計画を大きく変更
組員の殺害とジョニーへの罪の押し付けという二つの課題を、自身で同時に達成しなければならない状況に

このように、第2話では単一の対立だけでなく、複数のコンフリクトが重なり合い、絡み合いながら、物語が展開されていきます。これにより、観客は常に緊張感を保ちながら物語を追うことになります。また、各コンフリクトが別々に解決されるのではなく、互いに影響し合いながら展開していく構造は、物語に深みと複雑さを与えることに成功しています。

巧みに描かれる複雑な人間関係


母と息子の謎めいた関係
物語は主人公と母親との複雑な関係性を丁寧に描きます。認知症の母が道端をさまよっているという連絡を受けた主人公は、ジャズのレコードをかけ、母の手を取ってダンスへと誘います。この時、母から投げかけられる「息子が負け犬じゃ私も惨めよ」という言葉は重要です。第1話から彼女はずっと息子に行き過ぎた期待を向けているように感じます(負け犬になるなと)。彼の母は何を望んでいるのか?そしてなぜか?

●二重の機能を果たす葬儀シーン
母とのダンスの後、主人公はアルの葬儀に参列し、そこでソフィアと重要な会話を交わします。この会話は二重の機能を果たしています。
1つ目は、観客への巧妙な情報提供です。主人公は自身の兄弟の死とその後の母の様子について語ります。これは、先ほどまで謎だった「母の過度な期待の背景」を説明する重要な情報です。しかし、このタイミングでの説明は絶妙です。まさに観客が「主人公と母の関係について知りたい」と思っているタイミングで提供されるため、露骨な説明として感じられることなく、むしろ主人公への共感を深める効果を生んでいます。映画愛好家が嫌いがちな「説明セリフ」とは受け取られないようになっています。

2つ目は、ソフィアと主人公の関係性の転換点としての機能です。それまでソフィアは主人公に対して強い拒否反応を示していました。しかし、この会話を通じて彼女の態度は大きく変化します。表面上は感情を表さないものの、彼女の心は確実に動いています。この変化は、彼女が単に悲しみに沈むのではなく、弟の無念を晴らし、自らがボスになるという新たな決意を固めるきっかけとなったと解釈できます。
●関係性の深化と必然的な展開
この会話を境に、ソフィアは徐々に主人公への心理的な距離を縮めていきます。その後の展開で、主人公の行動により彼女の右腕が死亡し、さらにボスから「安全のため」という名目でイタリア行きを命じられるなど、ソフィアは組織内で徐々に孤立していきます。このような状況下で、彼女が最終的に主人公との協力関係を求めるようになるのは、極めて自然な成り行きとして描かれています。
このように、第2話では単なるプロットの進行だけでなく、登場人物たちの複雑な心理と関係性の変化が緻密に描かれているのです。

予測を裏切る結末

第2話のクライマックスでは、観客の予測を巧みに裏切ります。ジョニーを罠にはめようとするゴールに向け物語は展開されてきましたが、最終的に罪をかぶったのはソフィアの右腕であり、逆にジョニーという強力な敵を残すことになります。これにより、今後の物語はより一層の困難が予想される展開となりました。

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