「見世物の搾取」にたいする社会風刺:『NOPE/ノープ』
いい、いいよ。
なんという鑑賞後の余韻。
いろいろと考えさせられるホラー・エンターテインメント。
それが『NOPE/ノープ』という映画です。
『ゲット・アウト』や『アス』を手がけたジョーダン・ピール監督による作品で、今回も見事な出来。
「スペクタクル(壮大な景色や出来事)を作りたかったんだ」と述べる監督は、過去のハリウッド大作を踏襲しつつ、誰も見たことがない新境地に観客を誘うエンタメに仕上がっています。
ところどころに社会風刺がちりばめまれた本作を、ストーリーと背景をふまえ、少しずつ紐解いていきたいと思います。
ストーリー
舞台はロサンゼルス郊外。
映画やテレビ用の「調教馬」を飼育する牧場を営む親子。
そんな親子に、ある日突然悲劇が訪れます。
空から落ちてきた5セント硬貨が頭に直撃し、経営主の父親が命を落としてしまいます。
半年後、主人公のOJは父親の牧場を引き継ぎますが、いまだに父の命を奪った「最悪の奇跡」を受け入れられずにいました。
馬を売ることで、経営難の牧場をなんとか存続させようとするOJ。
寡黙で真面目なOJに対して、妹のエメラルドは社交的で明るく野心家と、対照的な2人の性格。
そんな兄妹は牧場で起こるさまざまな怪奇現象を機に、謎の飛行物体が牧場の上に潜んでいることにきづきます。
一攫千金を目指し、二人は飛行物体を映像に収めようと奮闘しますが、それはのちに起こる「最悪の奇跡」の始まりにすぎませんでした。
背景
「わたしはあなたに汚物をかけ、あなたを辱め、あなたを見せ物にする」
映画の冒頭は、上記の旧約聖書の一節(ナホム書3章6節)から始まります。
ナホム書は、栄華をほこったアッシリア帝国の陥落を予言した内容で、首都ニネヴェに「神が裁きを下す」というもの。
ニネヴェでは魔術や売春によって国民を支配し、皮を剥いだ敵を柱に吊るして「見世物」にしていたからです。
そして上記の一節は「傲慢な人間には、神はこのように罰を下されるぞ」という意味。
では、その「傲慢な人々」とは一体誰のことなのでしょうか。
それは「何でも意のままに操れると勘違いしている人類」に他なりません。
本作に影響を与えた作品には『キング・コング』(33年)と『ジュラシック・パーク』(93年)が挙げてられており、この2作に共通するのが「人類が巨大な生物を飼い慣らそうとして返り討ちにあう」というプロット。
それは『NOPE/ノープ』にも当てはまります。
『ゲット・アウト』では人種差別を、『アス』では格差社会をテーマにしていましたが、本作で描かれるのは「見世物からの予想外の反撃」。
主人公
「何でも意のままに操れると勘違いしている人類」の対比として描かれるのが主人公のOJです。
彼は馬の面倒を献身的に見つつ、目は合わせないといったルールにのっとり、生物の習性と向き合った上で共存しています。
映画の冒頭、CM撮影のさいにそのルールに従わなかったスタッフのせいで、馬が暴れてしまうシーンがありますが、「ルールを守らないと痛い目を見る」というのちの展開を示しています。
OJはのちに、UFOに対しても目を合わせないというルールにのっとり、対峙することになります。
本作では、過去に起きた事件もスパイスとして効いています。
それはチンパンジーを使ったテレビ番組にて、チンパンジーが暴れて顔に深いキズをおう出演者や、亡くなってしまう出演者がでた事件。
当時子役としてその番組に出演し、その惨劇を生き延びたジュープが、UFOを飼いならそうとする姿は、OJとの良い対比になっています。
おわりに
本作は『ゲット・アウト』で黒人史上初のアカデミー脚本賞を受賞したジョーダン・ピール監督の雄弁な作品。
調べれば調べるほど発見がある作品の重層性と、非常に分かりやすいエンターテイメント性が一体となった稀有な映画です。
作品を重ねるたびに社会の新たな一面を見せてくれるジョーダン・ピール。
次はどのような驚きを与えてくれるのかと、期待が膨らみます。