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【文で身を立てる】アメリカ建国の父・フランクリンの文章トレーニング

16人の兄弟とともに貧しい家庭に生まれたベンジャミン・フランクリン。

10歳で学校を中退した彼は、一体どのようにして、小学校中退から史上最も優れたアメリカ人になったのか。

その秘密は「文章トレーニング」。

スティーブ・ジョブズの伝記で有名になったウォルター・アイザックソンは、ニューヨーク・タイムズのベストセラー『Benjamin Franklin: An American Life』の中でフランクリンについて以下のように書いている。

「(彼は)同世代で最も優れたアメリカ人であり、アメリカがどのような社会になるのかを創造する上で最も影響力を持った人物だった。」

お金もなく、近くに教師もいなかったため独学で「文章」を学ぶことを決意した10代のフランクリン。

彼の自伝『フランクリン自伝』には、彼がどのようにしてそれを行ったかが正確に記載されているので、ご紹介したい。

分解と再構築

16歳のときにフランクリンは、自身の文章について「スペルと文法は良いが、表現の優雅さと明快さの点ではるかに劣る」と告白。

改善しようと決意した彼がした文章トレーニング法が以下。

・お気に入りの雑誌のひとつである「スペクテイター」を手に取る
・いくつかの記事を取り出し、それぞれの文の意見や視点、心情についてキーワードだけ書いた「ヒント」を作る
・それを数日間、寝かせる
・雑誌を見ずに「ヒント」だけを見て、思いつく限りの適切な言葉で、同じくらい詳しく必要十分な記事を完成させる
・オリジナルと比較し、自分の欠点を見つけて修正

以下が原文。

“I took some of the papers, and, making short hints of the sentiment in each sentence, laid them by a few days, and then, without looking at the book, try’d to compleat the papers again, by expressing each hinted sentiment at length, and as fully as it had been expressed before, in any suitable words that should come to hand. Then I compared my Spectator with the original, discovered some of my faults, and corrected them.”

詩作と再構築

次にフランクリンは「語彙の習得」に取り組んだ。

そのために採用したトレーニングが「詩を書くこと」で、詩が作家としての成長を加速させることができると語る。

というのも、詩をつくることで、言葉を思い出して使用する準備をおこなう「言葉のストック力」を鍛えることができるから。

詩は同じ意味の言葉であっても、長さが異なったり、韻を踏むために言葉の多様性を探求する必要に迫られる。

実際に行ったトレーニングは、「スペクテイター」の記事を詩に変えること。

そしてしばらくたってその記事の内容をすっかり忘れてしまったときに、自分のつくった詩から、記事を再現してみる。

そしてオリジナルと比較し、自分の欠点を見つけて修正。

以下が原文。

“But I found I wanted a stock of words, or a readiness in recollecting and using them, which I thought I should have acquired before that time if I had gone on making verses; since the continual occasion for words of the same import, but of different length, to suit the measure, or of different sound for the rhyme, would have laid me under a constant necessity of searching for variety, and also have tended to fix that variety in my mind, and make me master of it.“

“Therefore I took some of the Tales & turn’d them into Verse: And after a time, when I had pretty well forgotten the Prose, turn’d them back again. “

シャッフルと再構築

ここまでのトレーニングで、「文章の作成」と「単語の選択」に熟練したフランクリン。

次に彼が目をつけたのが「全体的な構造」。

やり方はシンプルで、「分解と再構築」のトレーニングとほとんど一緒だ。

ただ違うのが、ヒントを「ごちゃ混ぜ」にして、流れが分からないようにすること。

再構築する段階では、まずはヒントを最適な順序にまとめる必要があり、思考を整理する力を養うことができる。

以下が原文。

“I also sometimes jumbled my collections of hints into confusion, and after some weeks endeavored to reduce them into the best order, before I began to form the full sentences and compleat the paper.“

おわりに

なによりも、まずは自分が真似をしたい、参考にしたい文章の書き手を見つけることが肝心。

フランクリンが参考にした「スペクテイター」がどのようなものだったかがWikiにのっていた。

簡単にまとめると、日刊紙であり、架空の解説者であるミスター・スペクテイターが登場することが特徴。

内容は ➀ロンドン市民たちの習慣、癖、そして無作法についてと、②自身について文章における饒舌さと、日頃の寡黙さを対比させた皮肉。

目的は、読者たちに思慮深い議論のための話題を提供することと、談話や社会的な交流における丁寧なマナーを習得させることを目指したとあり、家族や結婚、そして礼儀に関する価値観を広めたそうだ。

実物を読んだことがないのでなんともいえないが、「ウィットに富んだ、マナーについての物語風の記事」が書かれたあったと思う。

そうであれば、フランクリンが「スペクテイター」の記事を「tales」と呼ぶことにも納得だ。

彼の自伝『フランクリン自伝』には、文字通りの無一文から富豪になるまでの物語には、執筆とより良い生活習慣についての洞察が詰まっており、一読の価値がある。

人生の節目で何度も繰り返して読みたい。


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