レビュー『美術家になるには』
芸術家という言葉はよく目にするけれど、美術家ってなんだろう?と、タイトルから興味をひかれて手にとった本。
「なるには」シリーズの一作で、「美術家を、職業という観点から子供たちにやさしく紹介する」案内書です。
本書では美術家を以下のように語っており、好奇心をかきたてられます。
アーティストの生きざま紹介
現役の美術家として、先ず取り上げられるのが現代美術家・川俣正、画家・福田美蘭、彫刻家・青木野枝、メディア・アーティスト・八谷和彦の4人。
4人の業績や生き方が紹介され、次に、画家・大岩オスカール幸男、彫刻家・棚田康司の実際の仕事風景が紹介され、リアルな現場を感じることができます。
また、軽く美術史についても触れられており、そこで興味深かったおは、20代、30代から本格的に画家を目指し、世界的に有名になった画家もいるという事実。
たとえば、セザンヌは22歳の時に画家を目指しはじめ、ゴッホは画家になることを決意したのは27歳の時。
ゴーガンに至っては35歳の時に画家として独立しています。
必要な資質や能力
美術家になるにあたって、まず大前提となる資質が「絵が描くことが好き」というもの。
絵の技術は重視されない現代において、子供の頃の才能は関係なく、とにかく絵を描くことが好きであるということが大切です。
つぎに必要なのは「個性と意志の強さ」。
自己表現の方法を問われる仕事なので、他の人とは違う個性を出し、批判されても自分の意見を貫く意志の強さが必要。
最後に必要とされているのは「自分で計画を立て、実行する力」。
あらかじめ期限や条件が決められた会社での仕事とは違い、自ら目標をたて、制作時間を決め、実際に制作をする能力が大切です。
美術家になるには
まず大切なのは、美術家の成功とは何かを知ること。
そして、美術家の成功は以下の3つに集約されます。
本業として収入を得ること
作品が美術館にコレクションされ、マスコミにも取り上げられ、作品集をだしていること
海外の展覧会に招待され、国際的に活躍すること
まずキャリアの第一歩としては、二浪、三浪は覚悟し、とりあえず美大、芸大に入ることを著者はすすめています。
というのも、学校から教わったことがそのまま役にたつからというよりも、美大、芸大は、仲間との議論や人や画廊の紹介、自由な時間と制作場所という環境を得られるから。
画廊の存在感は薄れてきているものの、貸し画廊には美術評論家や画商さんも見に来るのでやはり捨てたものではないと、著者は語ります。
また、美術館という公共的な施設にコレクションされることはすなわち、優れた美術家として太鼓判を押されるということなので、これが40歳までにクリアできれば上々とのこと。
さらに、国際的なアート情勢を知る必要があり、有名なものにヴィネツィア・ビエンナーレ、ドクメンタ、サンパウロ・ビエンナーレ、シドニー・ビエンナーレ、リヨン・ビエンナーレが紹介されています。
おわりに
著者の村田真(むらたまこと)さんは1954年、東京都生まれ。
東京造形大学絵画専攻卒業後、ぴあ編集部を経て、フリーランスで美術ジャーナリストをされている方で、本書では、現役の美術家の生き方や仕事風景を紹介し、実際に美術家として生きていくのに必要な資質や能力を定義して、どうすれば美術家になれるのかを語っています。
現役の美術家という実例が紹介されるので、イメージがわきやすく、わかりやすい内容。
主に国内での活動について語られているので、グローバルで活躍したい方には物足らないかもしれません。
そんな方には、実際に世界で活躍されている村上隆さんの『芸術起業論』と『芸術闘争論』といった本で、実践面を補完するのがおすすめです。