北欧社会の平等性の深層：ヤンテの掟
「世界幸福度ランキング」というものを聞いたことがある人は多いはず。
国連の関連団体が毎年発行する調査で、国民1人当たりの国内総生産（GDP）や健康寿命、汚職の程度といった項目ごとに調査を行い、それらの数値を幸福度として定量化しています。
そして2022年の最新版では、以下のように146カ国の中で北欧諸国が上位を独占しました。
・フィンランドが1位
・デンマークが2位
・アイスランドが3位
・スウェーデンは7位
・ノルウェーは8位
ちなみに日本は54位となっています。
とくにフィンランドに関しては5年連続で首位を獲得。
幸福度という分野における北欧諸国の強さが明らかになりました。
幸福度が高い理由は平等性？
それにしても、なぜ北欧で暮らす人々は幸せなのでしょうか？
国土全体を覆う豊かな森や湖、スウェーデンのフィーカ（Fika）やデンマークのヒュッゲ（Hygge）を代表とする、ゆったりとしたライフスタイルなど、その要因はさまざま考えられます。
そのなかで今回注目するのは、北欧社会の「平等性」です。
北欧諸国は、高福祉・高負担と言われる社会モデルとして知られています。
それは皆で税金を払い、全員が等しく福祉やサービスを享受するというもの。
いわゆる「北欧モデル」と呼ばれる国家の福祉政策で、高い税金を払う恩恵として教育費や医療費は無料、他にもさまざまな福祉サービスを受けることができます。
そして、このような政策が成り立つ北欧社会の根底には、「平等」という価値観があります。
少数の人が豊かさを独占する競争社会ではなく、皆が平等に幸福を分かち合う。
だからこそ、競争のストレスでギスギスすることなく、国民皆がゆとりある生活を送ることができます。
そして、このような北欧社会の「平等性」を表している言葉として、今回のテーマである「ヤンテの掟」があります。
ヤンテの掟とは？
ヤンテの掟は、デンマーク出身の作家アクセル・サンデモーセ（Aksel Sandemose、1899年～1965年）が1933年に出版した小説がもとになっています。
それは、「En flygtning krydser sit spor（逃亡者は自分の足跡を横切る）」という小説。
ヤンテの掟の「ヤンテ」は、この小説に登場する架空の村の名前から取られています。
（サンデモーセの故郷であるモースー島（Morsø）の町ニュクービング（Nykøbing）が、小説のヤンテの村のモデルとなっているようです。）
小説では、ヤンテの村に住む人々が守るべき10の掟（十戒）が記されており、この戒律が「ヤンテの掟」として知られるようになりました。
ヤンテの掟はデンマーク語では「Jantesloven（ヤンテスローベン）」、英語圏では「The Law of Jante」と呼ばれています。
内容は、平等と他者尊重を重視する社会規範となっており、「自分が他人より優れていると思ってはいけない」「他人より物知りだと思ってはいけない」といったもの。
この掟は、デンマークのみならず、北欧社会に共通する大切な価値観とされています。
ヤンテの掟の内容
以下に、ヤンテの掟の内容を記載します。
・You’re not to think you are anything special.
自分がひとかどの人物であると思ってはいけない。
・You’re not to think you are as good as we are.
自分が我々と同等であると思ってはいけない。
・You’re not to think you are smarter than we are.
自分が我々より賢明と思ってはいけない。
・You’re not to imagine yourself better than we are.
自分が我々より優れているという想像を起こしてはいけない。
・You’re not to think you know more than we do.
自分が我々より多くを知っていると思ってはいけない。
・You’re not to think you are more important than we are.
自分が我々を超える者であると思ってはいけない。
・You’re not to think you are good at anything.
自分が何事かをなすに値すると思ってはいけない。
・You’re not to laugh at us.
我々を笑ってはいけない。
・You’re not to think anyone cares about you.
誰かが自分のことを顧みてくれると思ってはいけない。
・You’re not to think you can teach us anything.
我々に何かを教えることができると思ってはいけない。
おわりに
読んでおわかりのとおり、「慎ましく生きろ」と言われているような気がします。
昨日紹介した『あやうく一生懸命生きるところだった』で感じた「あきらめの境地」に近いものを感じました。
それにしても「自分が何事かをなすに値すると思ってはいけない。」というのは強烈で、抜け駆けをするなという同調圧力が働きそうです。
デンマークのみならず、北欧社会の価値観として重要な存在といわれてるヤンテの掟ですが、こういった均質性への固執は、反発をうみだしていないのか気になりました。
北欧出身の友人がいないのでなんともいえないのですが、友人ができたときに、そもそもヤンテの掟を知っているかどうか、そして、ヤンテの掟で示される価値観を持っているかどうかを確認したいと思います。
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