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定款認証手続の負担軽減のための新たな取組について

執筆/法務省民事局総務課公証係


 我が国の重要課題であるスタートアップ支援については、政府レベルにとどまらず、全国の自治体においても、様々な取組が進められている。我が国では、株式会社を新たに立ち上げるには、一般的に、起業家が事業計画等を策定した後、①商号や本店所在地等を決定して定款案を作成し、②公証役場で定款案の審査を受け(定款認証)、出資をした後、③法務局へ設立登記の申請をすることになる。このように株式会社の設立に当たって必要となる定款の認証手続(会社法(平成17年法律第86号)30条1項及び公証人法(明治41年法律第53号)62条ノ2)については、起業環境の改善の観点から、手続の迅速化や負担軽減を図ることが求められるようになっている。

 そこで、法務省ではかねて、この公証人の定款認証手続に関して、ウェブ会議による面前確認手続の導入(平成31年3月~)、手数料の引下げ(令和4年1月~。現在は資本金の額に応じて3万円から5万円まで。)等の対応を進めてきた。

 また、令和5年10月から、法務省に設置された有識者検討会(経済界、消費者団体、研究者、専門資格者といった各界の有識者により構成)において、定款認証の機能・意義や現状・課題に関する認識を踏まえ、起業家の負担軽減に向けた運用上・制度上の改善策や定款認証制度の必要性・抜本的見直し等について検討が行われ、令和6年1月に議論の取りまとめがされたところであり、法務省では、今後、この取りまとめを踏まえ、検討を進めていくことを予定している。この検討会の経過や取りまとめ全文については、法務省ホームページ(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00052.html)で公表されている。

 さらに、こうした手続の迅速化や負担軽減のニーズに対して、各方面からスピード感ある早期の対応が強く求められていることを踏まえ、法務省及び日本公証人連合会では、上記検討会の議論と並行して、速やかに実施する運用改善措置として、令和5年12月以降、定款認証手続の負担軽減を図るため、以下の新たな取組を開始したところである。

① 定款作成支援ツールの公開
② 上記①のツールを使用した場合における48時間以内の処理
③ 定款認証手続におけるウェブ会議の利用拡大

 これらの新たな取組の概要は、下記のⅠからⅢまでのとおりである。法務省では、現在、経済団体や資格者団体等への周知や関係する自治体・民間のインキュベーション施設等への案内を進めているところであり、今後、会社設立に関する実務にも一定の影響があると思われる。国・自治体等の創業支援・スタートアップサポートに関わる皆様には、是非、ご認識いただければ幸いである。

 なお、これらの新たな取組については、現在、利用者の声を踏まえつつ、順次改善を図りながら取組を進めていることから、その内容は、今後変更される可能性がある(実際に、下記のⅠ及びⅡで触れているとおり、開始当初から、定款作成支援ツールの内容及び48時間以内処理に係る委任状の取扱いについて改善が図られているので、留意されたい。)。最新の情報については、逐次、法務省ホームページ(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00076.html)及び日本公証人連合会ホームページ(https://www.koshonin.gr.jp/news/nikkoren/startup.html)に掲載しているため、これらのホームページも参照されたい。

Ⅰ定款作成支援ツールの公開

 法務省の関与の下、日本公証人連合会において、定款の作成を支援するデジタルツールを初めて作成し、令和5年12月26日から上記の日本公証人連合会ホームページでの無料公開を開始している。

 このツールは、エクセルファイルで作成され、入力用のシートにおいて、商号、事業目的、公告の方法等の所定の事項を入力又はプルダウン選択すると、その内容が定款案を生成するシートに自動的に転記され、定款案がPDF出力されるものとなっており、これにより、定款案を迅速・容易に作成することが可能となっている(なお、このうち事業目的の入力欄については、公開当初は5項目までとされていたが、利用者等からの意見・要望を踏まえ、令和6年2月1日に、入力欄を拡張し、15項目まで入力することができるようになった。)。

 また、日本公証人連合会の許可を得て二次利用をすることが認められており、例えば、専門資格者や民間事業者等が、日本公証人連合会の許可を得てこのツールを二次利用し、ユーザーフレンドリーなより操作性の高いサービスを提供することも期待されている。

 なお、このツールは、スタートアップ向けに、小規模かつシンプルな形態の株式会社の定款案をデジタルツールを用いて迅速に作成したいというニーズに対応するために作成されたものであることから、生成することのできる定款案の内容は、発起人3名以下で取締役会不設置、株式非公開といった一定類型のものに限られている。また、生成される定款案は飽くまでも一例であり、嘱託人において、定款案の内容が設立しようとする会社に合ったものとなっているかどうかを十分に検討することが求められることにも留意を要する。

Ⅱ定款作成支援ツールを使用した場合における48時間以内の処理

 上記Ⅰの定款作成支援ツールを使用した場合(定款作成支援ツールを二次利用した民間サービスを使用した場合を含む。)に、原則として48時間以内に定款認証手続を完了させるとの新たな運用を、令和6年1月10日から、東京都内及び福岡県内の全ての公証役場において開始した。

 この運用は、迅速な手続完了を希望する起業家のニーズに応えようとするものであり、発起人本人あるいは資格者代理人が嘱託する場合のいずれも利用が可能となっている。その具体的な利用方法については、次頁の図表を参照されたい。

 なお、48時間以内の処理を希望する場合の委任状の作成方法について、運用開始当初は、電磁的記録をもって作成した委任状に委任者がマイナンバーカードの署名用電子証明書を利用した電子署名をしていることを要件としていたが、令和6年2月1日に、この要件を撤廃し、書面をもって作成した委任状に委任者が記名押印をし、その印鑑に関する印鑑登録証明書を併せて提出する場合にも、48時間以内の処理を利用することができるようになった(委任状を書面で作成した場合には、郵送又は持参を要するため、48時間の算定方法が異なるため、留意されたい。)。

 また、この取組に合わせて、東京都内及び福岡県内の公証役場では、48時間以内の処理の対象となる嘱託について、繁忙な起業家のニーズに対応するため、公証人の面前での確認(公証人法第62条ノ3第2項及び62条ノ6第1項)を実施する日程の調整が困難な場合に、通常の業務時間(午後5時15分まで)にとどまらず、平日の夜間(午後8時まで)にウェブ会議により対応する取組(事前予約制)も行っている。

 この48時間以内の処理の取組については、今後、利用状況を踏まえ、他の地域にも順次拡大される予定である。

Ⅲ定款認証手続におけるウェブ会議の利用拡大

 定款認証における公証人の面前での確認については、平成31年3月から、公証役場に赴くことなくウェブ会議により実施することが可能となっている。

 現状ではその利用率は約1割(令和4年実績)にとどまっているが、ウェブ会議を利用することにより、公証役場に赴くことなく手続を終えることが可能となることから、嘱託人等の負担軽減の観点から、全国各地の定款認証の実務においてウェブ会議の利用拡大を図っていくことが期待される。

 この点に関連し、定款認証における公証人の面前での確認におけるウェブ会議の利用については、これまで、嘱託人本人が面前確認を受ける場合に限定する運用がされていたところ、今般、日本公証人連合会から全国の公証人に対し、嘱託人から委任を受けた代理人が面前確認を受ける場合にもウェブ会議の利用が認められることについての周知がされ、ウェブ会議の利用要件の緩和が図られている(令和6年1月から運用を開始した。)。

 また、ウェブ会議の利用要件については、指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令(平成13年法務省令第24号)9条7項において、「嘱託人の申立てがあり、指定公証人が相当と認めるとき」と規定され、公証人がウェブ会議の利用を相当と認めるかどうかについては、個々の事案ごとに必要性と許容性とを総合的に勘案して判断されている。もっとも、定款認証における公証人の面前での確認については、上記の嘱託人等の負担軽減の観点や現在の技術状況等を踏まえると、事前の相談や確認等の過程において公証人に発起人の設立意思等についての疑義を抱かせる特段の事情がない限り、ウェブ会議の利用によることの必要性・許容性が一般的に広く認められると考えられる。そこで、法務省と日本公証人連合会は、その方針を確認し、定款認証における公証人の面前での確認について、公証役場に赴くことなくウェブ会議の利用を原則とする新たな運用を令和6年3月1日から開始したところである。法務省では、今後、日本公証人連合会等とも連携して、定款認証手続におけるウェブ会議利用の周知や利用促進を図っていく予定としている。

 なお、上記の取組の開始等に伴い、今後さらに、定款認証のオンライン手続(ウェブ会議、オンライン嘱託)の利用が進むことが期待されることから、法務省では、令和6年3月から、公証役場における定款認証のオンライン手続に関する相談窓口を設置した(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00076.html)。この相談窓口によって不適切な事案を把握した場合や寄せられた御意見等については、法務局又は地方法務局による公証人の監督事務や、定款認証手続の改善等に活用していく予定としている。

 以上、本稿では、起業環境の改善・スタートアップ支援の一環として進めている会社設立手続(定款認証手続)の手続迅速化や負担軽減の取組を紹介したが、今後、この取組が各方面の理解・協力を得て適切に広がり、起業家支援の一方策として定着していくよう、対応を進めていきたいと考えている。


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