【CoCシナリオ】夏は寂しい、古書の海【京都】

<はじめに>

・やってきました、新作クトゥルフ神話TRPGシナリオです。森見登美彦作品をCoCシナリオに変える人です(「夜は短し飲んでは歩け」)。今回は、森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』第二章「深海魚たち」を参考に作ったシナリオです(ページ数は角川文庫版に準拠)。
・なお、同じく、現代日本の京都舞台のシナリオとして、上の「夜は短し飲んでは歩け」以外に、「奇妙な京都」というシナリオもあります。ぜひこちらも遊んでください!
・夏、下鴨神社にて催される京都の恒例行事、納涼古本まつりを舞台としています。原作の主人公よろしく、探索者は何か特定の本を探していることにしてプレイしてもらいます。稀覯本を探している方が雰囲気があると思うのですが、PLが思い浮かばないようなら、古典小説の初版本にするとよいです(夏目漱石とかルイス・キャロルとか)。互いのほしい本をかぶらせるとロールプレイが捗るかもしれません。
・シナリオ制作の資料集めとモチベーション維持のために、有料公開にしました。無料部分だけでも、シナリオの雰囲気はわかるかと思います。

<シナリオの雰囲気>

 舞台は、殺人事件が続いている夏の京都。下鴨神社で開かれる「納涼古本まつり」の前々日からシナリオは始まる。探索者たちは、左京区は京都大学のほど近く、鞠小路通沿いにある古書店【鳴滝フィロナス社】を訪れるところから始まる。探索者のなかに読書家がいれば、イギリスの哲学者ジョージ・バークリの対話篇『ハイラスとフィロナスの三つの対話』というタイトルに覚えがあるかもしれない。ことほどさように、人文書に強い書店なのだ。

 店主の伊藤アリスから連絡を受けた探索者たちは、【鳴滝フィロナス社】が書店営業を終えた夜、彼女を訪ねた。アリスに導かれて二階に上がった探索者たちは、彼女が、先日殺された友人について、そして、その娘を引き取ったことについてぶっきらぼうに話すのを聞きながら、蒸し暑さの中流れる汗をぬぐい、その日から始まる数奇な出来事を予感するのだった。

<シナリオ情報>

想定プレイ人数:2~4人

所用時間目安:4~9時間(真相に辿り着かなければ、3,4時間。悩んでも三日という時間制限があるので、さほどかからない)

シナリオタイプ:シティシナリオ(夏の京都、下鴨神社から京大近辺を三日間で探索する感じです)

その他:戦闘少しあり(回避可能)、探索・調査メイン、<交渉系技能>必須

リプレイ化(動画・テキスト・イラスト)歓迎です。ただ、このページへのリンクを付けてくださるとうれしいです。

<注意>

・殺人事件についての依頼がある以上、探偵や警察関係者、あるいは、ものすごくEDUがINTが高い、荒事に通じているなど、「頼みやすそうな人」がいると、導入がスムーズです。戦闘は少しあります。<交渉系技能>が必須であるのに加え、<目星><図書館>など基本的な探索技能はあったほうがいいです。

・探索者全員が依頼それ自体に興味はなくても構わない。しかし、話の都合上、本好きであることが望ましい(本好き探索者たちに囲まれるなか、あえて本嫌いロールプレイをするのも味かもしれないけど)。

・左京区のGoogleMAPとか、観光ガイドブックとかを見ながらプレイするとはかどりますよ。夏の左京区を駆け回ります。

・主要拠点の一つとなる鞠小路通の【鳴滝フィロナス社】の周辺に、実際にある場所を紹介しておきます。阿闍梨餅で有名な「満月」(『夜は短し歩けよ乙女』にも登場)、古書店の「吉岡書店」「星と蝙蝠」、「京都大学」のほか、田中神社、ファストフード店、ケイヨーデイツー、出町柳駅(京阪電車および叡山電車)、書店+映画館の「出町座」や豆餅で有名な「出町ふたば」のある桝形商店街、鴨川デルタ、イベントスペースのGACCOHなどがある。直接役には立たないけど、ロールプレイに京都感が出るかも。下鴨神社の周辺には、「加茂みたらし茶屋」や、落ち着いた喫茶の「木下珈琲店」などがあります。

・訪ねることができる場所は【】、技能は<>、関係する固有名詞や組織などは《》で表記しています。

<導入>

導入1 【鳴滝フィロナス社】を訪ねる。

夏の納涼古本まつりの前々日、友人(知人)の伊藤アリスに呼び出され、【鳴滝フィロナス社】を営業終了後に訪ね、殺人事件についての調査を依頼される。待っていると退屈なので基本こちらがいいと思います。

導入2 導入1の探索者たちに誘われる。

以下では、想定される基本的な探索場所の順に、情報を記載していきます。

【鳴滝フィロナス社】

・鞠小路通沿いにある、鳴滝系列の古書店。探索者は、古本市の前々日の夜、ここを訪れるところから話は始まる。一階が書店スペース、二階が事務所+キッチン、三階がプライベートスペースになっている。人文系の出版も行っており、常連向けに新刊も少し置いている。近くにある古書店「吉岡書店」や「星と蝙蝠」とはうまくやっていて、交流もある。

・探索者が書店を訪れたとき、営業終了時間直前なので、もうシャッターは半分閉めてある。手元の書類に目を落としている店主・伊藤アリスの姿を認めると、向こうもあなたたちの存在に気づく。「ああ、来たのか。ありがとう。」という感じで、探索者の年齢にかかわらずフランクに話す。

・アリスは口を開く。「あぁ、なんだ。その……知っているだろ? ここ一ヶ月くらいずっと続いている殺人のこと。あの被害者、友達だったんだ」。

・探索者が関西圏に在住しているなら自動成功、そうでなければ<知識>で以下の情報を得る。この一ヶ月ほどで5件の殺しがあった。夫の葬式を終えた神谷えり子が、数日後通り魔に殺されたのが最初の事件。一週間後に、その長女・神谷まさりが殺され、数日前に、茂木たか宏茂木ひろ貴が殺された。報道では、「京都連続通り魔事件」などと呼ばれている。(この情報が手に入らなくても、アリスの説明を続けてください)

・探索者の様子をみながら、アリスは以下のことを話す。殺された友人・神谷えり子の忘れ形見、神谷てんこを引き取る予定であり、今、てんこは自宅に帰り、ここに引っ越す準備をしている。明日、彼女の引っ越しを済ませ、明後日以降は、下鴨神社での納涼古本まつり(二日間)に参加することになっている。(※KP向け情報※ 古本市の開催期間が制限時間なので、プレイヤー人数や経験などから判断して、開催日数を三日や四日に変更してもよい。)

依頼は、アリスの古書店業務を手伝いながら、事件に関する調査を行うこと。調査を依頼するのは、事情を詳しく知ることで、必要があればてんこに説明し、彼女を安心させたいのだという。アリスは、明後日から始まる古本市や、明日の引っ越しのせいで忙しく、詳しい経緯は自分たちで調べてほしいと言い、とても疲れた表情で二枚のハンドアウトを渡す。

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