【舞台脚本小説】 Draw The Curtain (8)
この作品は2010年に公演した舞台脚本を小説にしたものです。
この【Draw The Curtain】は1時間45分の会話劇でした。
その為、膨大なセリフ量を小説にしているせいか、とても長い作品になる予定です。
ゆっくりではありますが、小説へと変換させていきますので
気長に読んでいただけると嬉しいです。
もし舞台関係者様がこの作品を読まれて、
気に入った!そして舞台で公演したい!と思った方は是非、お気軽にお問い合わせください。
※この小説にした【Draw The Curtain】は多くの方に見てもらいたいので無料で公開しますが、
舞台で公演する場合は営利目的になりますので、有料でのお貸し出しになります。
予めご了承の上、お問い合わせください。
それでは【Draw The Curtain】とはどう言う話なのか
本編をお楽しみください。
※掲載させていただいている写真はイメージです
※このお話は続きものです。
これ以前の話や続きはマガジンにまとめております。
是非ご覧ください。
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お前、聞いてただろ?
いや、聞こえてたはずだろ?
むしろお前に聞こえるように、こっちは声を張り上げて、このバカを罵ってたんだよ。
なのになんだその格好?
もしかして、俺の借金をないものにしようとしている計画がバレてる状態で、まだ何か俺に茶番を見せようとしているのか?
五味は、葛城の全身包帯姿を見て不穏な空気を察した。
葛城は五味がどう思っていたのか関係なく、咳き込みながら五味の方へだらしなく腰をかがめ、必死にバランスを取りながら歩み寄って言った。
「ちょっと、聞いてください…」
葛城の声は、息をするのも辛そうにしていた。
五味は、服の上から包帯を巻いている葛城を見て、何故今こんな状況になっているのか全く理解できなかった。ただ、わかっていることがあるとすれば、それはこんな茶番に付き合えないということだった。
「何だよ、シスター?」五味は、嫌味を込めて葛城に言った。
「私はシスターじゃありません。ただの通りすがりの病人です。」
葛城は息を荒げながら五味に返した。
「どこ通りすがってんだよ?つーか、さっきから部屋の中を通りすがれる状況ってなんだ?」
五味は声を荒げて言ったが、葛城は深いため息をつき
「私がこうして生きていられるのは、木島さんのおかげなんです。」と、木島を見つめ茶番を続けた。
「葛城さん、それ以上は…!」木島は顔を青くし、慌てて口を挟んだ。
五味は思った。
こいつらはどういう精神力をしているんだ?
何故、バレているこの状況で続けられるんだ、と。
少し二人に感心してしまっている自分を律する様に、二人のやりとりに釘を刺した。
「もういいよ。」
木島は五味の言葉をかき消すように、慌てて口を挟んだ。
「葛城さん、それ以上は…!」
「私は命にかかわる重い病にかかっていました。」しかし、葛城は言葉を止めることなく続けた。
「重い病って、なんだ?」五味は冷たく反応した。
「その重い病を治すには、どうしてもお金が必要で…」
「重い病って、なんだ?」
続ける葛城に対して、五味は先ほどと全く同じトーンで、冷たく反応した。
「その重い病を治すために、五つの味と書いて五味と読む人に返すはずのお金をこんな私の為に。だから私は今こうして歩けるように…ゲホゲホ!」葛城は一息で言い切り、そして大きく咳き込んだ。
「葛城さん、そんな入院中の体で無茶したら…。」木島は急いで口を挟んだ。
「入院中なのかよ…。」五味は冷たく口を挟んだ。
「木島さん!命の恩人が困っている時に無茶をしなかったらいつするんですか?」
「葛城さん、でもね、そのお金は…。」」
「わかってます。彼に借りたお金だから、私の病気を治したのは彼だって言いたいんでしょ?」
「そうです。」
二人は揃って、五味を見つめた。五味の目は、相変わらず死んだ魚の目をしていた。
「五味さん…」葛城は弱々しくも五味にお礼をいうために近づいたが
「なんだか熱っぽくなってきた…」と言って、目の前で両膝をつき、お礼を言うのを断念した。
「ちゃんと言えよ!」五味は声を荒げた。
「私はまた、ICUに戻ります。」葛城は五味を無視して木島に告げ、ゆっくりと立ち上がった。
ICUから出てきて、またICUに戻る?
何を言ってるんだ?頭が悪すぎる…。
五味は呆れすぎて開いた口が塞がらなかったが、なんとか絞り出して葛城に聞いた。
「お前、ICUの意味わかってるのか?」
「集中チュリョウ…シュチュウチュロウ、違う。チュチュチリョ…」
「ちゃんと言えよ!」
五味は、まさか口の回らない葛城に、さっきと同じツッコミをしてまった。
不穏な空気を察した木島は「お大事に!そしてわざわざありがとう!」と、葛城を出てきた場所へ戻そうとした。葛城は木島を見つめ
「一度失いかけた命、今度はずっとあなたの為に使わせて下さい。」
「葛城さん・・それって。」
「(照れながら)じゃあ・・。」
ラブロマンスを匂わせつつ、また元の場所へ戻って行った。
木島と五味だけが残った空間は、数分前と全く同じように一瞬にして重くなった。
そしてまた木島は、立ち尽くしながら小さく息を吐き、そして窓から見える外を眺めながら「俺、彼女の思い、受け取るよ。」と、哀愁を漂わせながら、五味に伝えると
「一刻も早く彼女とお前が退院するといいな。」五味は、木島の背中に向かって言った。
木島は、優しい言葉を投げかけてくれた五味に感謝をしようとした瞬間、ある言葉にひっかっかった。
彼女とお前が退院?
ん?俺も退院?
そう思った刹那、背中に衝撃が走った。
五味が木島の背中を足の裏で蹴ったのだ。
木島の顔は危うく、壁に激突しそうになったがなんとか持ち前の運動神経で窮地を凌いだ。
木島は振り向いて「何するんだ!」と、五味に怒号を浴びせようとした。しかしその願いは叶わなかった。何故なら、五味の顔が仁王像のように真っ赤に燃え上がっていたからだ。
ダメだ…今何か言ったら、本当に入院させられてしまうかも知れない…
むしろ、壁に激突して額から軽く血でも流してた方が、こいつの怒りも収まり、あわよくば借金もろとも有耶無耶に…
木島は、生まれて初めて自分の運動神経の良さを悔やんだ。
「出てこい!」
五味は葛城が消えた部屋の扉を開けた。
するとそこには、集中治療室を言えなかった事を悔やんで練習する葛城が立っていた。
「チュウチュウ…」
「もうそれはいいん…!お前…。」五味は、葛城に注意しよとしていた最中に、あることに気付いて思わず絶句した。それは、間近で見たら葛城の身体中に巻かれていたのは包帯ではなく、トイレットペーパーだったからだ。
五味は、葛城の奥にトイレがあることを確認し、待機場所が何だったのか、疑問が晴れて少しスッキリはしたが、木島と葛城に対する怒りが収まることはなかった。
「おい、こいつ誰だよ!」
「大学の後輩で、今の彼女です。」
木島は礼儀だたしく葛城の隣に行き、紹介した。
「はじめまして、葛城といいます。これ、お近づきの印に…」葛城は、自分に巻いていたトイレットペーパーを五味に渡した。
「近づかねぇし、いらねぇよ。おい、俺の目の前で繰り広げられた茶番劇はなんだったんだよ?しかも毎回、最後はいい感じで結ばれようとしやがって。大体、一回目で嘘ってばれてて、よく2回目やる勇気あったな?」
木島は少し照れた。
「褒めてねぇ!」五味はすかさず、持っていたトイレットペーパーを木島の顔に向けて投げた。
そして五味は呆れた口調で
「くだらねえ嘘の上に、さらにもっとくだらねぇ嘘重ねてきやがって…。」そう嘆くや否や、突然、五味の言葉を遮るように部屋に飾られている絵が落ちた。
3人は当然のように、落ちた絵に視線を奪われた。
つづく