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ドキドキが止まらない《上》


いつもの冬の気温、寒い風が吹き荒れていたら
そんな決断はしていなかった。
しかし、その日はとても天気が良かった。
そう…良過ぎた。
そして気温も柔らかい。
そう…柔らか過ぎた。

だから私達家族は、近所のショッピングモールへ行く予定をやめ
第二子が産まれる前に安産祈願をしに行った神社へ
お礼を伝えに行くことにした。

いつもなら神社へは車で行くところ、
今回は電車を選んだ。

何故なら前日、作業が終わらなくて深夜までかかり
ようやく寝れた3時間後に第二子に起こされて
そのまま抱っこ地獄で朝を迎えた。

そう、私があまり寝ていなかったからだ。

近場なら問題ないが
遠出となると…運転は危ない。
運転はできても、おそらく運転中
いつ襲ってくるかわからない眠気にドキドキが止まらないだろう。

そう思い、家族の安全を守るため
電車で行くことを懇願し、了承を得た。
そして出先での飲酒も、了承を得た。

しかしここで2つ問題が…

第二子を抱っこ紐に入れて自転車に乗れないというか乗りたくないので
駅まで歩いて行かないといけない。
なので駅までは妻・第一子は自転車
私が第二子を抱えて歩く。

私の歩行速度は自転車には到底及ばないので
一足早く出て駅に向かった。
途中、スーパーがあるのでそこでリンゴジュースを買って行こうと立ち寄った。
何故なら、第一子が駅で絶対にリンゴジュースをせがむからだ。

駅の自販は高い
だから少しでも安くで済むならと立ち寄ったが…売っていない。

リンゴジュースはもちろんある。
が、持ち運びに便利な小さいペットボトルのがない。
500のペットボトルも考えたが
第二子を抱えてのプラス500gは腰にきそう。

たかだか500、されど500

そう思い、お金より体の負担を考え
スーパーでの購入を断念した。

駅までは10分強。
それまでに駅より安い自販はあるだろう。
探しながら駅へ向かうと
予想通り120円で売っている自販機を見つけた。

駅のは150円
この考えた通りにことが運ぶ喜びは、何ものにも変え難い。
そんな素敵な出会いに感謝しながら
私は小銭を出しリンゴジュースを購入した。

私は自販機からリンゴジュースを取り出し
意気揚々と駅に向かおうとした。

そう…向かおうとしただけ
私は一瞬で、意気揚々の気分が消えたのだ。

何故なら目の前に嫌なものが見えた。
今、取り出している自販機の少し行ったところに自販機があり
そしてその側面に100円の文字が書かれていたからだ。

もしかしたら100円でリンゴジュースが?

…まだ売っているとは限らないが、この目と鼻の先でのミスは
今日一日、引きづりそう。
頼む、売っててくれるな

そう思いながら歩み始める。
ドキドキが止まらない。
せっかく眠気でドキドキするのが嫌だから車を諦めてもらったのに
何故、こんなところでドキドキしなくちゃいけないんだ。

そして恐怖の自販機に到着。
恐る恐る100円の自販機を覗き見る。

…売ってない!
勝った!
リンゴはないけどモモがありやがった。
うちの子、モモは飲まん!

そして意気揚々を取り戻し、駅へと歩みを始めた。

が…

またもや前方に自販機発見。
駅に着くまでにどれだけ自販機があるかはわからない。

そうか…いちいちドキドキさせられるのか?

もう目を伏せて歩くか?
いや、逃げは良くない。
今日一日の運をこの駅までの道のりで試そう。
安いのが見つかならければ今日一日ラッキー。

見つかったら今日一日、何かある…

そんな謎のルールを作り、次の自販機に到着。
そして確認すると
早めに110円のリンゴジュース発見。
早速、負け決定…。
しかも、さっき購入したのと全く同じやつ…。

娘を前に抱っこしているせいか
膝から崩れ落ちそうになった。

100メートルも離れてないのに
なんで同じ商品で違う値段があるねん!
あかん!もしかしたらこの感じ
今日一日、付きまとうかもしれん!

そう思いながら駅へ肩を落としながら
駅へ向かっているところに
自転車に乗った妻と娘が通り過ぎた。

妻は私に気づいたが
後ろに乗っていた娘は私に気づかなかった模様。

そのまま無言で過ぎ去っていった。

そして私もようやく駅に到着し
娘に高い値段で購入したリンゴジュースを手渡した。
歓喜する娘に何故、私に気づかなかったか尋ねると

「パパは大きいのに、見つからなかった」

とのこと。

大きいけど見えなかった…
もしかしたら凹みすぎて、体が縮こまってしまってたのかもしれない。
この悪い流れを断ち切るかのように、背筋を伸ばして電車に乗った。

しかし…この気持ちは、
どうやら断ち切ることはできなかった。


続く


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