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風の冷たさが心にしみる、免許更新後の帰り道

風が強い日だった。

吹きつける風が体温を奪い、日差しはあれど
心を満たす温もりには足りない。
風から逃れるために私はラーダースの襟を立てながら歩く。

向かう先は警察署。
今日は免許の更新の日だ。

今回からはゴールド免許。
だから最寄りの警察署で手続きを済ませられる。
便利になったものだ。
しかし、以前とは勝手が違っていた。
いつの間にか、更新は予約制に変わっていたのだ。

前回の更新時は早い者勝ちで長蛇の列に並ばねばならなかったが、
それを考えれば予約制の方がずっと楽だ。
むしろ、なぜ今まで導入されていなかったのかと首をかしげるほどだ。

予約制とはいえ、私は予定時刻の二十分前に警察署へ着いた。
何となく、余裕を持って到着しておきたかった。
待合席に腰を下ろし、時間になるのを待つ。
時間になったら、どこからともなく現れた案内人の指示にしたがい
受付から視力検査、写真撮影と、一連の流れは滞りなく進んだ。
平日だからか、それともゴールド免許の特典なのか、
手続きは驚くほどスムーズだった。

三十分の講習も簡潔なものだった。
冊子を配られ、改正点の説明を受ける。
そして「自宅で読んでください」との呼びかけ。
きっと近い将来、この冊子すら無くなるのではないか?
だって、データでいいもんねなんて思いながら
次の映像確認へ移った。

まず流れたのは、事故の遺族の証言。
そして、様々な事故映像が続く。
見慣れた形式だが、心に重くのしかかるものがあった。

免許を受け取り、警察署を後にする。
吹き荒ぶ風は相変わらず冷たい。
帰路の途中、私は先ほどの映像を思い返しながら考えていた。

事故を防ぐことが大前提。
しかし、被害者だけではなく加害者の視点も必要なのではないか…と。

事故を起こしてしまった者の人生はどうなるのだろう。
賠償金の支払い、刑事責任、そして何よりも、
その後の人生を背負う罪の意識。
事故の抑止を考えるならば、加害者の視点を伝えることも有効ではないだろうか。遺族の悲しみを知るのと同じくらい、
加害者の後悔や苦悩を知ることもまた、事故を未然に防ぐ助けになるのではないか。

青信号を待ちながら、ふと空を見上げた。

晴れているのに、どこか温かさを感じない。
まるで、事故によって人生が変わってしまった被害者、加害者の心情のように。
って、これは勝手な想像だが…。

私は信号が変わるのを待ち、いつも以上に慎重に左右を確認してから歩き出した。
抑止の効果は出ている。


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