
変わらない空、変わるみかん、変わりすぎる私の心
外気は肌を刺すように冷たい。
だが、その冷たさが妙に心地よかった。
まるで長い間まとわりついていた重苦しい霧がようやく晴れたかのように、
胸の内が軽い。
つい最近まで、体を蝕むような頭痛・気持ち悪さに悩まされていた。
胃腸炎。あの地獄の日々が嘘のようだ。
顔を上げると、冬の空は雲ひとつなく澄み切っている。
その青さに目を奪われながら、ふとひとつの考えが頭をよぎった。
みかん、食ってねぇな…と
何故、青から橙が浮かんだのかはわからない。
ただ…自由に食べれなかった日々が
私の頭をバグらせたんだと思う。
みかん…買って帰ろう
私は足取り軽くスーパーに立ち寄り、帰宅した。
みかんを買ったのが珍しかったのか
「また風邪でも引いたの?」
と、妻が心配してきた。
ビタミンを欲するならサプリを買う
そう告げみかんを妻に差し出した。
みかんを手に取った妻が突然「あっ!」と声を出した。
一個みかんがカビているとの事
やってしまった。
みかんを買う際、よく見ないで手に取ってしまってた。
みかんが食べたいより
みかんを買って帰ることが目的になっていた。
7個中1個カビか…
まぁ、そんなこともあるかと思っていたら
「あぁ!」とまた妻が先程よりより強い声を発した。
3個ダメになっていると…
7個中3個…もう半分腐ってると言っていい数
「これは…」と妻は私を見つめてきた。
目は口ほどに物を言うとはこのことだ。
全部を言わなくてもわかる。
スーパーにもう一度行って取り替えてこいと言っている。
帰ってきたばかり。
正直、しんどいけど…こんなみかんをつかまされて
黙っていれるほど大人じゃない。
いや、どちらかというと
よく見ずに手に取った自分の後悔の方が強い。
私は、まだ熱をおびていた脱いだばかりの上着をもう一度来て
スーパーへ行った…と言うか、戻ることに決め外に出た。
スーパーまで家を出て10分。
外は…寒い…。
あんなに清々しく感じた外の空気、そして空の下は
今の私に虚しさを募らせた。
スーパーにつき店員さんに報告すると
激謝りで新しいみかんと取り替えてくれた。
その激謝りで余計に、私がもっとよく見ておけば…と
更なる後悔を募らせた。
私は手に取ったみかんを店員さんの前で激確認。
もし見過ごしたらこの店員さんも嫌な気分になるし
それに家にはもっと厳しい面接官の妻も呆れてしまう。
私は細部まで確認し、痛みがない事を確信してスーパーを出た。
外に出ると、今一度?いや、今三度になるのか?
澄み切った空気が頬を刺した。
みかんが食べたいから始まって
いつしか、みかんを買って帰るに目的が変わり
そして、みかんを取り替えるにさらに変わり
最後は、腐ってないみかんを家に連れて帰る。
この短時間でどれだけ変わってるんだよ…
雲ひとつない空、さっきと何ひとつ変わらない空を見上げてながら
私は少しドキドキしながら帰り
そして最終面接官の妻にみかんを差し出した。
妻はみかんを見つめ、そして無言でこちらを見つめた。
目は口ほどに物を言うという。
全部言わなくてもわかる。
これは合格だ
私は、安堵し
そしてみかんを剥いて一つ口に入れた。
あんま…美味くないな…
こればっかりは、見た目ではわからん!
さて、7個中何個が美味しいのか…
私の新たな戦いが始まった。