エミーナの朝(12)
記念旅行 1
いろいろと互いに忙しく、ナゴンとは、スマホでは話すが、たまに会う程度で、ひと月程たった。
夕方、ナゴンから電話があった。
温泉への誘いであった。
ナゴン「コーちゃんが、温泉に行こうって、しつこいのよ。
『行ってもいいけど、エミーナも一緒よ』って言ってやったの。
そうしたら渋々OKしたわよ。だから一緒に行こうよ。勿論、費用はあの人持ちよ」
エミーナ「あらあら、お熱いことですわね。二人で記念旅行として行けばいいのにぃ~」
ナゴン「いやよ。温泉地で目立っちゃうわよ。恥ずかしい」
エミーナ「うふふ、しょうがないわねぇ。行ってあげるわよ」
ナゴン「それでね、出発は、わたしの仕事の都合で十日後なのよ。 都合つく?」
エミーナ「あ、大丈夫よ。 じゃ、久しぶりに、旅行の打ち合わせを兼ねて、アパートに行くわよ。 今、仕事中でしょ?」
ナゴン「そう、今日は遅くなるから無理だけど、明日は遅出のシフト。 だから、明日の朝来て」
エミーナ「OK!」
夕食後、ひと片付けした後、わたしは机に向かった。
実は、わたし、ファイナンシャルプランナーの資格を取ろうと思って勉強を始めたところ。
夫は、その資格の中でも、高度なレベルのものを持っていたので、「教えて」って言ったら、
「ぼくは、君が作ったんだから、君が知っている以上のことは知らない」と言われてしまった。
でも、目標を持ったら、生活に張りが出てきた。
深夜まで、がんばった。
がんばって金融の勉強をしたせいか、おカネの夢を見た。
宝くじが当たった夢である。
銀行に換金に行こうとするが、歩いても歩いても、少しも銀行にたどり着けない。
換金できる一年の時効が、なんと今日までであるのに……
銀行が閉まりかけて、あせっているところで、目が覚めた。
フーッと息を吐き出した。
「夢か」とつぶやいた。
最近の夢はこんなものである。たわい無い夢である。
心が穏やかな証拠だろうと思っている。
さて、今日はナゴンのアパートへ行く。
「途中で、美味しいものでも買わなくっちゃ」とつぶやいて、毎日の家事のルーチンワークを開始した。
家事が終わり、街のスイーツ屋さんが開店する時刻である。
クルマで出かけ、駅近くの駐車場に止めて、駅前通りのスイーツ屋さんに入る。
うふふっ、おいしそう。
濃厚なチーズケーキ
チョコレートたっぷりのドーナツ
さくさくのシュークリーム
甘さ控えめの白玉あんみつ
などなど……
買った、買った、買ってしまった。
少し買いすぎたかなとは思ったが、余ればナゴンが多分、職場に持っていって同僚におすそ分けするから、大丈夫!
ナゴンのアパートは隣の駅に近いので、このまま、電車で行くことにし、駅に向かった。
駅の周りでティッシュを配っていた。
ティッシュ配りの人は、渡そうとして私の顔を見るなり横を向こうとした。
だから、わたしは、手を伸ばして、その人から、サッとティッシュを奪ってやった。
ティッシュには、「タレント募集」と書いてある。芸能プロダクションのティッシュ配りだ。
「失礼な! まだ若いわよっ!」と、にらんで、駅の階段を上がった。
一駅なので、すぐに着いた。
駅の階段を降りると、ここでもティッシュ配りに出会った。
こんどは、私を見ると、ニコニコしてティッシュを差し出した。
見ると、「浮気調査は□□探偵所へ」と書いてある。
「失礼な! 浮気なんかされないわよっ!」とにらんで、ナゴンのアパートに向かった。