”タイパ”というニーズに、入試広報はどう向き合うべきか?”ながら”で伝えられる音声の可能性をいま一度考える。
タイパ…。最初、耳にしたときは、タイ料理のパーティーか何かと思いましたが、おそらく、ここしばらくは受験生に情報発信を行う上で、頭の片隅で常に意識しておかないといけない大事なキーワードなように思います。ちなみに、今さら説明不要かもしれませんが、意味としてはタイムパフォーマンスの略。短時間で効率よく情報を得たいという、若者世代のニーズです。今回、この言葉が頭によぎったのは、東京工芸大学のプレスリリースを見たのがきっかけです。まずは、このリリースから話をはじめていきたいと思います。
タイパと相性がいい、音声での情報発信
では、どのようなリリースかというと、東京工芸大学がファミリーマートの店内放送CMを元旦よりはじめたというものです。ファミマの店内放送CMというと「帝京魂!」のフレーズが耳に残る、帝京平成大学が有名です。東京工芸大のCMも、帝京平成大と同じように有名声優(アムロ・レイ役で有名な古谷徹!)を起用しており、音声でありながらキャッチーで強いインパクトを与えるものになっているようです。
「帝京魂!」の取り組みを知ったときは、ファミマという若者がよく使うところで情報発信をすることに意味や価値を感じていたのですが、今回、東京工芸大の取り組みを知ったときはそれだけじゃないように思いました。その価値というのは、冒頭で述べたタイパにつながるのですが、“ながら”ができること。パンフであれ、YouTubeであれ、ウェブページであれ、そこから情報を得ようとすると、そのための時間が必要になります。これって言い換えると、時間の長短はあるにしろ、その人を独占しないといけないんですよね。でも、音声は、何かをしながら情報を得ることができる。これって他の情報発信方法とは根本から違うように思うのです。
ちなみにタイパという発想からではなかったのですが、忙しい社会人や主婦に情報を伝えるにはどうするべきか、という問いをきっかけに、ホトゼロでは同志社女子大学さんの音声メディアを立ち上げ、今も運営支援をしています。高校生に向けた音声メディアというのも有りなのかもしれません。
情報は濃く、時間は短く、というタイパの難しさ
“ながら”とタイパの相性の良さについて、もう少し説明を続けたいと思います。タイパについて言及する記事でよく具体例として取り上げられるのが、若者たちが動画を倍速で見る、という話です。授業動画のような本当は見たくない(かもしれない…)動画だけでなく、映画や音楽といった本人が明らかに見たいと思っている動画も倍速で見るようで、そこにまず驚きを感じます。でももっと面白いのは、とはいえ倍速にして見ていることです。だって、タイパを突き詰めていくのなら、たとえば映画だったら“あらすじ”だけを読めばいいじゃないですか。でもそうじゃないようなんですね。ここでわかるのは、効率よく情報を得たいけど、情報を薄くしたいわけじゃないということです。
以前は大学案内を作成していると、「若者は文字を読まないから、写真を大きく文字は少なく」という要望をよく聞きました。入試広報に関わっていると、タイパへのニーズはこの延長線上にあるように受け取ってしまいがちなのですが、実は違うように感じます。情報は、濃いままでないといけないのです。
倍速で動画を見せるような、情報は据え置きにしつつ時間のみ圧縮するというのは、こういったニーズに対するシンプルな解の一つだと思います。でも、発信側としてはベストではないかたちで情報を発信することに抵抗感を抱くでしょうし、大学は倍速で授業動画を見られてヤキモキしている立場なわけで、自分たちがそれを率先して行うことはなかなかできません。であれば、時間を圧縮するのではなく、同じ時間を複数用途で使えるようにするという、“ながら”ができる情報の伝え方というのが、タイパにこだわる若者への情報発信として、わりかしいいのではないかと思うのです。
ちなみに、もう一つ有効だと思うのは、情報の濃さは変えないものの、ピンポイントで必要な情報のみを届けるというアプローチです。これの究極なかたちはFAQサイトです。タイムズカーの動画FAQサイトは、このアプローチを考えるうえで参考になりそうだと感じました。
とはいえ、必要な情報を伝えるというアプローチは、ユーザー側に明確なニーズがないと成立しません。ある程度、予測して当てていくというやり方もなくはなさそうですが、そこらへんはどうなんでしょう…。
実際のところはトライ&エラーを繰り返すしかなさそうですが、タイパというトレンドにまでなってしまったニーズにどう応えていくのかは、今後の若者への情報発信(入試広報含む)では避けては通れない課題であることは明白です。大変ではあるけれど、こういう新たな“問い”が生まれてくるのは、広報の面白さでもあるなあと、しみじみ思います。
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