この曲が好き! WINO-〈太陽は夜も輝く〉への考察と偏愛
私の1番好きな漫画はHUNTER×HUNTERです。
割と色々な作品を読む方ですが、小学校時代から自分でも呆れるくらい一途にこの作品を愛しています。私にとっては精神安定剤であり、聖書であり、人生の教科書でもある作品です。
特に旧アニのOVA、ヨークシン編は何度も繰り返し見てきました。セル画の少し沈んだ色調とダークサイドに振り切ったストーリーが最高にマッチして、年々輝きを増しています。最近のデジタルな色調では出せないあの鬱々した世界観…。
そのオープニングテーマである〈太陽は夜も輝く〉は神曲ですが、詩的な歌詞が想像をかき立てるわりに考察記事があまり出ていません。(時代的に、なんでもWEB発信という文化はなかったからでしょう)
ということで、(あまり)ないなら先に書けばイイ。
私が思うこの曲の世界観を文字に起こしてみようと思います。
歌詞全文
OP曲としての考察
(注意:ここから、ストーリーの細かい部分やOP映像に触れる箇所が出てきます。)
前提として、ヨークシン編のメインストーリーはかつて仲間を幻影旅団(=クモ)に殺されたクラピカの復讐譚です。クラピカは団員の1人との勝負に勝ち、復讐は一旦成功します。しかしその後、幻影旅団の団長クロロが殺された団員への弔いとしてクラピカを追う側に回ります。
お互いに復讐する側であり、される側でもあるという因縁のはじまりです。
フルバージョンだと結構なボリュームのある詩ですが、アニメOPに採用されていたのは下記の4フレーズのみでした。
【アニメOP版】
1 この太陽は夜も輝いて夢をみる
2 そして急ぐ君の目に焼き付いてはなれない
3 終わりなく続く歌 想いさえ超えてゆく
4 君の目に映るように胸の奥開けたまま
この部分から考察を始めましょう。
OP映像はまず、皆既日食のモチーフから始まります。漆黒の闇、妖しくゆらめく赤い日輪、重厚感のあるイントロが響きます。
1の歌詞で映るのは幻影旅団の姿。
クロロの顔と額のギリシャ十字がアップで映し出されます。
2の前半、「君の目」という歌詞と共にクラピカの燃える緋の目にフォーカスが入り、後半ではその後ろ姿と折り重なる鎖が現れます。
3ではゴンやキルア、ノストラードファミリーの娘ネオンなど仲間たちの姿が走馬灯のように浮かんでは消え、
ラストの4ではクルタのマントを脱ぎ捨てながら復讐の鎖を放つクラピカの姿が。
はーっかっこいい……全てが懐かしくてかっこいい……
この最高なOP部分だけを元に素直に詩を翻訳すると、こんな感じでしょうか。
1 この太陽=幻影旅団。
夜も輝いて=旅団は昼夜問わず常にクラピカの頭の中心にいることの比喩?
彼らの目的であるオークションや対立するマフィアの存在をイメージさせる言葉でもありそうです。
夢をみる=目的に向かって動く
2 急ぐ君=クラピカ。一刻も早く復習を遂げたいという想いと焦りを抱えている。
目に焼きついて離れない=クモに対峙しただけで怒りに我を忘れてしまう様子を表す。
(※緋の目は感情の昂りによって虹彩が一時的に赤く染まる体質)
3 終わりなく続く歌=クラピカと仲間たちの交流を表す。復讐のための道中で出来たつながりが、次の出会いへ繋がっていく。
想いさえ超えてゆく=復讐だけを目的とするクラピカの想いさえ裏切って、彼らはクラピカを救うためにうごきつづける。予想外の事態が起こっていく。
4 君の目に映るように=クラピカを思いやるこの気持ちが伝わるように。
胸の奥開けたまま=仲間たちは受け止められるよう心の準備を整えて、復讐の終わりを待ち続ける。
映像が引いてくれた補助線を素直にたどると大体こんな解釈になるのではないでしょうか。
特に「君の目に映るように」の演出は印象的で、子供時代の私は自分まで気分が昂るような感覚を覚えていました。
しかし前後の歌詞も合わせ、フルバージョンを見ると歌の印象が少し変わります。
血生臭い復讐譚の気配が薄れ、宗教的で静かな雰囲気が増してきます。
WINOへのオファーの意味
ここからは、アニメ内容にとらわれずにWINOの一作品として、太陽は夜も輝くを考察していきます。
当時の音楽シーンをよく知らないので又聞きになりますが、WINOはUKロックをリスペクトした音楽スタイルを売りに、かなり強めにプッシュされているバンドだったそうです。
UKロックといえば一部にゴシック系のバンドがいたり、文化的にキリスト教の要素を含んでいたりする場合も多そう。(この辺は是非詳しい人のノートを見てください、そして実際のところを教えてください…)
WINOへオファーが行ったことと、クロロのマントや額に宗教的なモチーフがあることは無関係ではないのでは、と思います。
そうだとするなら、WINOは少なからずこの歌詞作りに宗教的な視点を入れたのではないでしょうか? きっと宗教というモチーフを生かすことが期待されている、とも考えたはずです。
WINOへのオファー内容は「OVAを制作するので、これまでの明るくいい意味でジャンプ的な印象を一変させるような大人向けの曲を歌ってほしい。ストーリーに合わせ、最後は明るく前を向けるような鎮魂歌にしてほしい」だったと推察します。
夫が幼い子を抱いて、亡くした妻を弔う歌
結論から言うと、わたしはこの歌を「夫から妻へのレクイエム」だと思っています。
舞台設定のキーフレーズは前半のこの3文です。
『幻が踊る街に さよならの鐘が鳴る
鳥は地を歩き 海は空を流れ
沈んだ魂の そばで頷いた』
普通に聞いても死別のイメージが湧いてくる歌詞かとは思いますが、言葉を一つずつ分解すればそれがよりはっきり分かります。
『鳥は地を歩き 海は空を流れ』
一見すると1番意味のわからないこのフレーズですが、鳥というのは本来空を飛ぶもの、地面から飛び立つものです。それがあえて地を歩いているのはなぜでしょう?
また海が空を流れる光景は想像できるでしょうか?逆であれば簡単ですね。海面に空の色が映り、雲の動きが見えるのはとても自然で美しい眺めです。
これが逆になっているということは、つまり天地がひっくり返っているということです。
私の解釈では、普通に生きていたら経験しないような異常な事態が起こった驚きとショックの暗喩と読みます。
その次に『沈んだ魂の そばで頷いた』と続きますが、魂が体から離れた状態で沈んでいるということは誰かが死んだのだろうと予想ができます。
では誰が死んだのでしょう?
もしこれが親であれば、おそらく天地がひっくり返るほどの衝撃はありません。もちろん悲しいことだけれど、親が先に逝くことは世界から見てとても自然なことだから。
また友人の死であれば、生きているうちに何度も経験することでしょう。
自分の子供や恋人が死んだとすれば意味が通りますが、ここで夫婦だと考えたのは「鳥」というモチーフがあえて使われているからです。
キリスト教の聖書の読み解きでは魚やパンなどの身近なモチーフが、富や肉体などの象徴として使われます。
鳥は種類によって意味が変わりますが、メジャーなものの中だと「ハト」が一番この歌詞にふさわしいように思います。(ほかにはワシ、にわとり、ペリカンなどの候補があります)
ハトは平和の象徴であると同時に、夫婦間の信頼の象徴でもあります。
まだ死を全く予想していなかったくらいには若い、でも信頼関係をしっかり築けるくらいには長く連れ添った夫婦の片方が死別するのは、まさに常識がひっくり返される衝撃でしょう。
またもう一つ、後半に『讃えるものなら ここにあるのさ』というフレーズがありますが、これは死者が生者のもとに残した功績=繋いだ命、2人の間の子供だと考えると、全体的にとても納得感のある詩に思えてくるのではないでしょうか。
余談ですが、私はこの部分の歌詞が昔から大好きで、ペンネームである歩鳥(ほとり)もここからとっています。はじめて使ったのは中学の頃だった記憶があります。その時は全体の意味まで考えていたわけではないですが、鳥があえて地面をゆっくりと歩くイメージになんとも言えない不気味さと仄暗さを感じた記憶があります。日常にも普通にある光景なのにそんな強烈な印象を与えられたのは、WINOの曲が持っていた厳かな響きのせいでしょうか。
モチーフごとの解説
大枠のシチュエーションを説明し終えたところで、歌に登場するモチーフや表現の意味を簡単に並べてみたいと思います。
全てをつなげたストーリーをこのあとで描いてみるので、あとで元の歌詞と並べて読んでみてください。
・そうして道の上
唐突な始まり。ここまでに起こったことの整理がまだついていない。「道」は人生の象徴でると同時に、ここでは本物の道を葬列が通るところをイメージさせる。
・さよならの鐘
死者の埋葬を知らせる教会の音。
・海
死、不安
・太陽
光、真理
・夜
神が光をもたらす前の混沌の世界
・歌
鎮魂歌。それ以外にもミサで歌う讃美歌や日常の仕事歌など、総じて連帯感を高めたり、特定の感情を呼び起こすために歌われるもの。
⭐︎全文意訳⭐︎
愛する妻が死んだ。
あまりにも急すぎる。事態を飲み込むこともできないままなのに、もう葬式が始まろうとしている。こんなことが起こるわけがない。
妻の棺を墓場へと運ぶ、その葬列に人々が弔いの声をかける。
ーどうか安らかに。今までありがとう。天国で会いましょう。
ただの形式的な言葉なのに、かけられるたびに君は本当に死んでいく。言葉が君を死者へと変えていく。
現実とは思えないようなこんな状況なのに、世の中の理は変わらない。君は当然のように死者として扱われ、僕も君の死を受け入れるようにと促される。
街を歩くと幻のように君の姿が浮かんでは消える。それなのに君の体は今埋められようとしている。教会の鐘が鳴り、僕は君にもう会えない。
これまでの平和な世界が壊されて、僕はもう立ち直れない。僕と、魂だけになった君は並んでこの悲しみの中にいる。けれど、徐々にいつも通りの世界が戻ってくる。僕は君との信頼関係を胸に飛び立ち、君の魂は天国へと昇っていく。
毎日を忙しく過ごすようになっても君の光を忘れることはない。夜になると君が夢に現れ、ひとときも忘れることを許さない。
君への鎮魂歌をくりかえし歌う。歌は寂しい気持ちを紛らわせてくれる。
僕の心の中まで君に見てもらえるように、思いを込める。
ゆっくりと寂しさは薄れ、君がこの世にいた痕跡も消えていく。でも君がこの世に遺したものは確かにここにある。君が完全に忘れ去られたとしても、この子が命を繋いでいくだろう。
君への鎮魂歌をくりかえし歌う。寂しい気持ちが癒えても。
僕の心の中まで君に見てもらえるように、素直な気持ちで。
世界はまだ夜のまま、太陽が戻ってくることはない。でも君とは違う光が、この夜を照らしてくれている。心には君を失った穴がある。どんなに素晴らしいことが起こっても、心には君を失った穴が空いたまま、僕は生きていく。
2つの顔を持つ名曲
このように、太陽は夜も輝くという曲は切り取り方によって印象が全く変わる歌です。
また一曲の中に死の悲しみを乗り越えていく人間の心の動きが凝縮されているにも関わらず、ありがちなハッピーエンドに終わりません。明るさの中にも最後まで暗さを残した詩と音楽が、絶対的な善悪を描かないHUNTER×HUNTERの世界観にぴったりと合っています。
大衆受けを狙ったバンドではなかったWINOが放ったスマッシュヒットとして扱われる今作ですが、この原作を尊重した曲作りがマーケ側ではなく当時のメンバーの実力によるものだったとするなら、現在の米津玄師と肩を並べるような創作者集団だったのではないかとすら思います。
WINOは昨年再結成されたそうなので、これからゆるりと応援していければと思います。
ところで他にも考察を書いてみたい曲がいくつかと、偏愛を語りたい漫画がいろいろあります。
今後いろいろ書いていければいいな。
(ちなみに自宅の本棚に並べている厳選マンガはHUNTER×HUNTER、エリア51、テガミバチ、スタンドUPスタート、レベルE、姉の結婚、JKハルは異世界で娼婦になった、BEASTARS の8作品です。同志の方、ぜひ友達になりましょう)