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マッドパーティドブキュア 308
天井から降る言葉に、セエジは窓を見る。
光球はなおも近づいてきている。目を向けるだけで目が痛くなるほどの輝き。すべてを染め上げるおぞましき七色の光。
セエジは黄金律鉄塊に手を添え、レストランに張り巡らした黄金の律に意識を流し込む。あの七色に侵食される前に受け止めて抵抗する必要がある。
光球が迫る。セエジは身構える。
ふと、背後に気配を感じた。あたたかく背中を抱きしめて包み込むような感覚。目線を向けるまでもなく、それは。
――女神様だ。
忌々しく思う。不要な助力だ。これだけしっかり準備ができているのなら、助力などなくても受け止められる。女神の行動はいたずらに被害の可能性を増やすだけだ。万が一失敗したときに侵食されて砕かれるのは自分一人で十分だ。セエジはそう考える。
けれども、セエジは何も言わなかった。何も言えなかったから。
あたたかな、しっかりとした温もり。忌々しい。忌々しい安心感。すべてを包み込むドブヶ丘の女神の偉容。
光球はもう目前だ。振り払う余裕はない。だから、仕方がない。仕方がないのだ。
衝撃。まばゆい閃光がレストランの敷地を染め尽くす。全てを押し流す虹色の奔流。繋ぎ止めて、繋ぎ止めなくては。セエジは必死にレストランを、黄金律鉄塊を、そしてそれに刻まれた調和の法則にしがみつき、保ち続ける。
衝撃は恐ろしいほどに大きなもので、奔流は衰えることなく暴れ狂う。七色の輝きが、セエジの思考に染み込んでくる。思考が、感覚が、光に逆流して拡散していく。
「いっちゃだめだよ」
背後から抱きしめられる感覚が薄れかけていた意識を一つにまとめた。響き渡っていた光がセエジの脳髄をすり抜けて後ろへと流れていく。
セエジはただ手の中の黄金律鉄塊にしがみついていた。
気がつくと光は消え去っていた。
セエジはあたりを見渡す。レストランはなんとか形を保っていた。
「よく頑張ったじゃん」
背後から声がした。
【つづく】