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マッドパーティドブキュア 325

「あなたもこの街が正しいとは思っていないでしょう? 歪んで……いびつで、醜い」
 マラキイに語りかけてくるラゲドは、その端正な顔をしかめて大げさに身震いをした。
「人々は気まぐれな事象に怯え、己の存在さえ確かなままではいられない。そんな街……正さねばならないでしょう」
「それで、正しい街で正しい人間だけが生きていくってのかい?」
「もちろんですよ」
 ラゲドが微笑んだ。
「街の律が正しくなれば、必然的にそこに住む者どもも正しくなる。忌々しい紛い物たちもすこしはまともに生きられるようになるでしょう」
「そんなことはない」
 後ろから口を挟んだのはメンチだった。メンチは斧を構えたまま、ラゲドを睨みつけていた。斧の刃はぎらぎらと七色に輝いている。
「この街が歪んでいるのは、歪んでいるだけの理由があるんだ」
「おや、あなたも以前お会いしたことがありましたね」
 声をかけられて初めて気がついたというように、ラゲドはメンチに目を向けた。メンチはラゲドの言葉を無視して続ける。その目に静かな怒りが燃えていることに、マラキイは気がついた。
「歪みの中にしか存在できないやつもいる。歪みの中で生まれて、歪みの中で生きて、歪みの中で死んでいく。この街の歪みはそういったやつが必要としているんだ。それをなくしてしまおうとするなら、あたしはお前を許さない」
「あなたに許されるかどうかはたいした問題ではないありませんよ」
 ラゲドが呆れたように首を振った。
「いびつな場所にしか存在できないような、いびつな存在はいい機会ですから、いなくなってしまえばいい。たいていそういうのは正しい者たちの脅威になりますからね」
「いびつな存在たちも生きているんだぞ」
「不要な存在が消えるのは、必要な犠牲です」
「そんなわけがあるか!」
 メンチが激昂して叫ぶ。飛びかかりそうになるメンチをマラキイは手を差し出して制す。まだだ、今は相手の機だ。仕掛ける時ではない。

【つづく】

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