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【holoGTA】パン屋ファミリーの結婚式

 カナタは後ろ手にホルスターから拳銃を取り出した。ゆっくりと、さりげなく。グリップを保持したまま、祭壇の影に拳銃を隠し、誰にも見えない位置に置く。
 悪徳の街ホロスサントスでも、拳銃の所持は違法だ。
 タキシード姿のパパにも、純白のドレスを着たままにも、参列者として椅子に座る警察官にも、そして目の前で笑顔で語るキツネ顔の医者にも気づかれるわけにはいかない。
 今日はパパとママの晴れの結婚式だ。

 二人が結婚式を挙げなかった理由は知らない。パパもママも時々冗談めかして「うちは式挙げてないからね」と言って笑うけれども、付け加えられる理由はその度に違った。だから、カナタはその理由を知らなかった。

 けれども今日、式を挙げることにした理由はよくわかっている。

 そもそもの原因は不倫だった。
 それもパパとママ両方の。
 パパはキャバクラの女性と、ママはキツネ顔の病院の医院長と関係を持っていた。それが互いにばれてしまった。あの夜はひどい夜だった。怒鳴り声と拳が飛びかい、カナタは家を飛び出した。
 
 怒鳴り声に交じった言葉がカナタを打ち据えた。
「あなたがあんな子を拾うなんて言うから」

 どうにでもなれと思った。
 コンビニを襲い、クスリを売り、ギャングとも繋がりを持った。そして最後には警察に捕まった。
 身柄を引き受けに来たのは両親だった。
 二人は言った。もう一度やり直すことにした、と。そして、改めて式を挙げることにした、と。
 家出をしたかなたを探し回って焦燥した二人の顔を見て、カナタは自分の行いを後悔した。
 二人が自分の両親なのだと改めて思った。たとえ自分が拾われた子だったとしても。

 結婚式の準備はママがパン屋の店番をしている間に、パパとカナタが二人で進めた。
 衣装を借りて、街の人たちに声をかけた。教会を借りて、段取りを確認し、装飾を施した。
 パパはずっと真剣で、素敵な式になるように一生懸命に考えていた。
 それを見て、カナタは二人の幸せを守ろうと堅く誓ったのだった。

 式の進行はカナタが務めることになった。
 たくさんの参列客に見守られ、式はつつがなく進行していった。
 異変が起こったのはパパとママが今まさに誓いのキスをしようとしたときのことだった。
「ちょっと待った!」
 と叫びながら教会に走り込んできたのは、キツネ顔の医者だった。
 この街で一番大きな病院の院長。
 そして、ママの不倫相手。

 悪い男でないことはわかっていた。昔から風邪をひくたびにお世話になってきた。街のみんなから慕われるお医者さんだった。
 家出をしていた時期にもカナタのことを気にかけて、街で見かけるたびに声をかけてきた。それとなく両親のことをフォローし、うちに戻るように促してきた。
 ママとの不倫だって、何かしら事情があったのかもしれない。

 だが、今懐かしそうな目でママを見つめながら思い出を語るキツネの目にカナタはなにか危険なものを感じていた。ストリートをさすらい、荒事に慣れた感覚が、警報音を鳴らし続けていた。
 いつもの温和な微笑みの奥で、鋭い目がギラギラと輝いているように見えた。
 だから、カナタはひそかに銃を構えた。
 何もないかもしれない。キツネはただパパとママを祝福するためにここに現れたのかもしれない。
 それでも万が一にもパパとママの幸せが壊れる可能性があるのなら、カナタは自分の手が血に染めるのを躊躇うつもりは欠片もなかった。
「あの日の22時、私はずっとカジノで待っていました」
「それは……」
「でも、あなたは来なかった」
「ごめんなさい。でも、怒ってらっしゃるかと思って」
「いえ、いえ、そんなことはありませんよ。むしろ、そう、とても……とても幸せな気持ちになりましたよ」
「それは……どういう?」
「もう恋なんてどうでもいいんです。皆さん!」
 そう言ってキツネは参列客に向かって言った。
「この街、わかりますか? この悪徳の街、ホロスサントス!」
 参列客に向かってそう言い放ったキツネは、ゆっくりとママの方に向き直った。
 キツネの右手が背中に回されて、再び現れる。
「この街でこんな幸せになるってのはおかしい話じゃないですか!」
 叫ぶキツネの手には不吉な光が輝いた。
 考えるよりも速く、カナタの身体は動いていた。
 銃を持ち上げ、照準をキツネの頭に合わせて、引き金を引く。
 流れるような動作。すさんだ不良時代に身に沁み込んだ動作。
 サプレッサーで消音された、くぐもった銃声が漏れる。
 銃弾はパパとママをすり抜けてキツネの眉間に吸い込まれていった。
 キツネの身体が力なく崩れ落ちる。カランと床にナイフが転がった。
 時間が動き出す。
 ようやく状況を把握した参列客から悲鳴が上がった。
 参列していた警官たちが血相を変えて駆け寄ってくる。
 反動にジンジンと痺れる手で、銃をホルスターにしまう。
 カナタの手は血に汚れてしまった。警察たちは自分を捕まえるだろう。
 けれども、その前に。
 カナタは声を張り上げて言った。
「さあ、皆さん。続けましょう」
 式は続けなくてはならない。パパとママを幸せにしなくてはならない。
 だから、カナタは叫んだ。
「パパ、ママ! 誓って!」
 戸惑うパパとママの後ろで、キツネの身体から流れ出た血が白い床を赤く染めていた。

【おしまい】


◆◆◆

この小説は以下の動画を参考に作成した、ホロライブ箱企画「holoGTA」に関する二次創作小説です。(3:09:00あたりから)

 


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