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マッドパーティードブキュア 315
「盟主って知ってるか?」
「調達屋連盟の長のことか?」
マラキイは意外な名前が出てきたと思いながら尋ね返す。ドブヶ丘において、盟主を名乗る人間はそんなに多くない。単に「盟主」だけの場合、たいてい一人の人間のことを指す。
「ああ、うちのカシラのことだ」
「お前、調達屋連盟なんだっけか」
「そうだよ。言ったことあるだろう」
メンチが頷く。そういえば、あのレストランでの退屈な待ち時間に、そんな話をしたような気もしてくる。今のいままで忘れていたけれども。
「盟主がどうしたんだ?」
「いや、あたしらが例の袋を手に入れようとしたら、盟主が別件で依頼を受けてたらしくて、袋をよこせと言ってきたんだよ」
「おう」
忌々しそうな顔でメンチは言葉を続ける。
「さすがに盟主の仕事に横やり入れるわけにもいかなくて、そのときは引っ込むしかなくてよ」
顔をしかめて吐き出されたメンチの言葉に、マラキイはなにか嫌な予感がした。猛烈に嫌な予感が。
平静を装いながら、マラキイは話の続きを促す。
「ちなみによ、その盟主の依頼主ってのは誰だったんだ?」
マラキイの問いに、メンチはより一層苦い顔をした。
「正黄金律教会だった」
メンチが苦々しい口調で吐き出した言葉は、マラキイの予測していた名前だった。がりがりと頭をかく。そういうことなら、今のこの状況にも説明がつく。
マラキイはあたりを見渡しながら尋ねた。四方を囲む壁は暗くて高く、気のせいか先ほどよりも迫ってきているような気がした。
「じゃあ、ここが、この袋が例の袋ってことか」
「ああ、多分な」
「なんでこんなところに?」
すこし口ごもってから、メンチは言った。
「盟主が言ってくれたんだ。やつらに袋を渡す前に、袋のなかに入ってろって」
「なんでまた」
マラキイは首を傾げた。メンチの口からきく、盟主の提案は随分と奇妙なものに思えた。ここにいるということは、メンチはその提案を実行したのだろうけれども。
【つづく】