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マッドパーティードブキュア 336

「策はないんだな」
 マラキイはセエジに尋ねた。セエジは頷いた。その唇は白くなるほどに噛み締められていた。
「でも、なんとかしねえとな」
「逃げることもできます」
 鋭い目つきで空を睨み、セエジは言う。セエジの口から聞こえたことのないような、低い声だった。
「テツノさんは実在を得ました。この地区の外に出ても大丈夫でしょう。女神様とメンチさん、それにマラキイさんがいれば、まだ正黄金律教会に対抗できるかもしれません」
 深く短いため息。セエジは苦々しい表情で付け加える。
「今、ここでは敵わなかったとしても」
「それで、そうしたら、この地区はどうなる?」
 マラキイはセエジをにらみつけて問いかけた。セエジは何も言わずにうつむいて首を振った。
「俺たちがいなくて、この地区はあれを何とかできるのか?」
「じゃあ、どうするんですか」
 セエジの声は大きな声ではなかった。だが、確かに苛立ちと怒りのこもった声だった。いらいらと歯を食いしばりながら、天に輝き踊りまわる腕を指差した。
「マラキイさんも、テツノさんもあそこには届かない。女神様の力も本調子じゃない。どうしようもないじゃないですか。だったら、今は撤退して、気をうかがった方が……」
「セエジ」
 半ば裏返りかけたセエジの絶叫は、マラキイの低い声に遮られた。マラキイの両目が、セエジの顔をまっすぐに見据える。
「なんですか」
 うろたえるセエジにマラキイはゆっくりと首を振った。
「残念だけどな、俺はドブキュアになっちまったんだよ」
「マラキイさん、そんな性質じゃなかったですよ」
「ああ、じゃあ、変わっちまったんだろうな」
「そんな」
「お前もそうだろう、メンチ」
 空を見張っていたメンチが、顔を下ろし、セエジとマラキイを見た。
「あたしはテツノが世話になったここが奴らに荒らされんのが嫌なだけだ」
「でも、じゃあどうするんですか」
「一つだけ考えがある」
 マラキイは両手を見つめながら言った。

【つづく】

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