マッドパーティードブキュア 329
音ならざる声を聴いて、マラキイは頷く。この声はメンチの頭にも聞こえているのだろうか。そんな考えが頭をよぎる。メンチも何かに頷いているのが視界の端に映った。どうやら、この声の作戦はメンチにも伝わっているらしい。
「いけるか?」
「ああ」
ためらいがちにメンチが頷く。
「いつもと逆の順でやるだけだ」
「わかってる」
答えるメンチの表情はひどく緊張した面持ちだった。マラキイは「大丈夫だ」と肩を叩いてやりたい気持ちになった。だが、そんな隙を晒すわけにはいかない。もしそんなことをしたら、ラゲドは隙を逃さずに二人を捕えてしまうだろう。だから、マラキイは何もせずに、ラゲドを睨んで、メンチには短く声をかけるだけにした。
「行くぞ」
「ああ」
メンチが答える。ためらいの色は含まれていない。少なくとも表面には。
「何を考えたのかは知りませんが」
ラゲドが嫌味に微笑んだ。その身の回りの呪文陣はもはや隠れることなく輝いている。おそらく強度もそれだけ上昇しているのだろう。
不快な笑みを無視して、マラキイはメンチに手で合図を送る。二人は同時に飛び出す。メンチが跳び、マラキイは地を這う体勢でラゲドに迫る。
「何度やってもおなじことですよ」
不快な笑み。一瞬でもはやくその顔を握りつぶしたくなる。その衝動をこらえてマラキイは僅かに減速した。ラゲドに悟られない程度にさりげなく。跳躍したメンチが少しだけ先行する。斧が落下の勢いのままに振り下ろされる。
呪文陣が輝きを増す。
メンチの斧が叩きつけられる。呪文陣そのものめがけて。
「なに!?」
ラゲドが驚愕の声を上げる。呪文陣に亀裂が入る。
「ドブキュア! マッドネス! ストンプ!」
メンチが叫ぶ。
「硬くしすぎたのが仇になったねえ」
音なき声が呟く。障壁となり形を成した呪文陣をメンチの斧が切り拓いていく。
「障壁を砕いた程度で!」
ラゲドが叫ぶ。急速に身の内に律を組み立てる。
「遅いぜ」
【つづく】
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