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マッドパーティードブキュア 312
例えば、敵が何らかの理由でこの袋の中にいるということは考えられるだろうか。
気配を探りながら、マラキイは考える。
敵は、ラゲドはひどく合理的だ。
無駄なことはしないだろう。袋は中と外を区切り、中のものを閉じ込めるものだ。袋の中に閉じ込められた時点で、中のものは生殺与奪の権を持ち主に握られてしまっている。少なくとも、この地区を侵略している最中に、わざわざ術者が袋のなかにいつづける必要があるとは思えない。それほどの余裕をラゲドがつくるとは思えない。その余裕は趨勢が決した状況では無駄と判断されるだろう。
ならば、なにがいる? 奴らの敵だろうか? 敵の敵は味方、などという甘い想定はするべきではないだろう。ラゲドがそのような手抜かりをするとは考えにくい。
考えられるのはむしろ、邪魔者を争わせて数を減らすことを狙っている可能性だ。袋の中に複数の敵対するものを放り込んでおいて、互いに争えばよし、そうでなくとも一か所に閉じ込めておいた方が管理はしやすくなる。
がざりと音がした。近い。マラキイは獣の影に身をひそめる。向こうはマラキイの存在に気が付いているのだろうか? いつの間にか呼びかける声は止まっていた。この靄の中だが、すでに原生生物たちの巨体は見つかっているだろう。向こうも原生生物を不用意に刺激するのを避けているのだろうか。
マラキイは一匹の原生生物の前足にぴったりと身体を押し付ける。原生生物も緊張しているのかピクリとも動かない。マラキイは動かない獣と呼吸を合わせて気配を消す。敵対者を認識する肌だけを残して獣と一体化するように存在をなじませる。
久しぶりに使う技術だ。向こうで自分の縄張りにいるだけならば不意打ちをする必要なんてなかったから。
からり、と何かが音をたてた。足音を消したつま先が不運にも小石を蹴飛ばした音。近い。
音もなく身を起こしマラキイは右腕を軽く引いた。一撃ですませる。
【つづく】