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【連載版】発狂頭巾二世―Legacy of the Madness ―25
「お父上の身の安全にかかわることだ。隠さずに話してくれ」
貝介はヤスケの目を覗き込んだ。その目には怯えの色がにじんでいる。だが、貝介は目をそらさない。まっすぐにその目を見つめる。
「大丈夫、父上がどうなっていたとしても、俺が守る。お前も、お前の母上もだ」
ゆっくりと、単語一つずつをヤスケに聞かせるように、貝介は言葉を発した。ぎゅっと握ったヤスケの肩をきつくなりすぎないように握る。
「お前が困っているのを、俺は放ってはおけない」
貝介はヤスケの目を見つめ続けた。ヤスケもまた、目をそらさずに貝介を見つめ返してくる。その目つきが少しだけ変わったことにヤスケは気が付いた。ためらいと安堵、少し緊張の緩んだ目つき。
「オイラが拾ったんだ」
「物理草紙をか?」
厳しい言い方にならないように気を付けながら、貝介は尋ねた。ヤスケはこくりと頷いた。
「この前、発狂頭巾の偽物に捕まったときだと思うんだけど、あの時にいつの間にか服の中に入っていたんだ」
「発狂頭巾の物理草紙だったのか? 中は読んだのか?」
畳みかけるように貝介は尋ねる。ヤスケは首を振った。
「表紙はそうだったよ。でも、中身は見てない。怖かったから。それに見る前におとうに見つかって、それで、おとうはすごく怒って物理草紙を取り上げたんだ」
「そうか」
それは不自然なことではない。裏で流通する発狂頭巾の物理草紙は禁制品だ。そのようなものを子どもが手にしていたら、尋常な親ならば怒って取り上げてしまってもおかしくはない。
「それからどうなった? その物理草紙は」
「わからない。おとうが取り上げて、それからオイラは見てないよ。でも……」
「でも?」
「そのときからなんだ。おとうが変になったのは。オイラが拾ってきた本を見つけてから」
「そうか。それで……お父上は今どこに?」
貝介は尋ねた。ヤスケの話を聞く限り、事態はひっ迫しているように思えた。会ってどうするかはまだわからない。それでもできるだけ早くヤスケの父親に会う必要がある。
「おとうは今日は……」
「ヤスケ、こんなところにいたのか」
不意に背後から声が聞こえた。聞き覚えのある柔らかな声だった。
「おとう」
ヤスケが呟く。貝介の手の中で、ヤスケの肩がびくりと堅くなるのを感じた。
「ああ、貝介さんじゃないですか。なんだヤスケ、遊んでもらってたのか?」
「お、あなたがヤッちゃんのパパ?」
黙ってヤスケと貝介の話を聞いていた平賀アトミックギャル美が尋ねた。
「あなたは……もしかして、平賀アトミックギャル美さんですか?」
「おっ! よくご存じで、ありがと!」
「ええ、息子が発狂頭巾が大そう好きでして。いつも一緒に見てますよ」
「そうそう、その話もしてたんだよ」
「へえ、そうなのですか。ヤスケ、良かったな」
「うん」
どこかぎこちなくヤスケが頷く。その様子に気が付いているのだろうか? 父親はただ嬉しそうに微笑んでいる。
奇妙な沈黙が流れた。
「あー」
「ぎょええええ!」
貝介が声を発しようとしたとき、通りに奇声が響いた。
【つづく】