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マッドパーティードブキュア 311
曖昧の地面はマラキイを音もなく受け止めた。
原生生物たちの塔はそれなりに高かったので、マラキイは相当の痛みと衝撃を予測していたけれども、どちらもほとんど感じられなかった。落下の浮遊感がなくなったことに気がついてはじめて地面の上に横たわっていることを知った。
横たわったまま空を見上げる。空に開いた穴は遠く、小さく見える。テツノは無事この袋を抜け出せただろうか。投擲は正確だった。不安定な足場ながらも、確かな手ごたえがあった。おそらくあの穴に向かってテツノを放り投げることはできた。問題はテツノが引力に飲まれることなく、この袋を脱出することができたかどうかだ。
マラキイは目を凝らして袋の口を見つめた。瘴気によどんだ空気は視界が通りづらい。それでも、球体のようなものがとどまっているようには見えなかった。マラキイは胸をなでおろす。テツノは無事にこの袋を抜けられたようだ。もちろん、途中で雲散霧消してしまった可能性は残されているけれども。
さて、これからどうしようか。
マラキイは身を起こして辺りを見渡す。あいかわらず視界は悪い。靄のなかに大きな影がいくつか動き出すのが見えた。おそらく原生生物だろう。やつらも無事だったかと、マラキイは安堵のため息を漏らした。テツノがいない今では命令を聞かせることはできないけれども、敵対しない生物が一緒にいるならばできることは格段に増える。
立ち上がり、生き残った生物を探そうと歩き始める。
「誰かいるのか?」
ふいに、声が聞こえた。瘴気に阻まれて、ひどくくぐもった声だったが、確かに意味を持った声のように思えた。マラキイは身構える。原生生物たちのなかにしゃべることができる生き物はいなかったはずだ。ではなにが?
マラキイは答えず、身を低くする。そっと右の手のひらに魔法の力を集めて息をひそめる。靄に隠れて相手の姿は視認できない。向こうからもそうであればよいがと思う。
【つづく】