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マッドパーティードブキュア 324
「おやおやおや」
嫌味な声が聞こえた。先ほど虚空から聞こえた声だった。もう、動揺の色はない。マラキイは手を振り払い、距離をとった。舌打ちを一つもらす。不意打ちが失敗した以上、敵の近くにい続けるのは危険だ。
「邪魔者は無事封じることができたと思ったのですが」
「あいにく、てめえの計画通りにはことはすすまねえのさ」
マラキイの呼びかけに答えるように、虚空が割れて、声の主が姿を現した。
姿を現したのは背の高い男だった。定規を当てたように伸びた背筋、端正なその顔には優美な微笑が浮かんでいる。
「ラゲド」
「まさか、あなたとこんなところで再会することになるとは思いませんでしたよ」
「てめえに嵌められてからこっち、俺はてめえをぶん殴ろうとずっと思ってたんだよ」
「おお、恐ろしい」
ラゲドは大げさに身震いをして肩をすくめた。マラキイはラゲドを睨みつけながら、さりげなく手のひらを向けながら気配を探る。瘴気と清浄の空気のあわいに判別をつけづらくはなっているけれども、手のひらの感覚はラゲドが確かにそこにいることを伝えていた。前のように幻影や映像の類ではない。確かに手の届く距離にいる。
「そのわりには」
にやりとラゲドが笑う。
「襲いかかっては来ないんですね」
「まあ、そんなに焦るなよ。てめえに聞きたいことは山ほどあるんだ」
いま手を出すのは早い。確実な隙を、少なくともつけこめるだけの間隙を狙わなければ、ラゲドはまた手の届かないところに逃げ出してしまうだろう。
「別に私はあなたに言うべきことは特にありませんが」
ラゲドが首を傾げる。マラキイは思考を高速で回転させ、問いを吐き出した。
「てめえは何をしたいんだ?」
「はい?」
「こんな地区まで出張ってきてあんなものを召喚して、それでお前は何を手に入れる?」
「ああ、そんなことですか」
いいでしょう、とラゲドは口を開いた。
「歪でゆがんだこの世界を正しいものに再構成するのですよ」
【つづく】