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マッドパーティドブキュア 331

 メンチが問いかけてくる。マラキイは黙って空を見上げた。黄金の方陣の顕現は更に進んでいた。いまや腕は完璧な造形をなしていた。内部まで完成して動き出すまで幾ばくも猶予はないだろう。そして、ラゲドの最期の言葉はおそらく正しい。
 マラキイはゆっくりと首を振った。
「なにかないのか?」
「わからん」
 ゆっくりとした口調でマラキイは答える。口調さえ逸らなければ、鼓動の焦りが伝わらないと思っているかのように。
「お前の斧はあそこまで届くか?」
「あの手に?」
 メンチが片眉を釣り上げた。それでも一瞬方陣との距離と自分の手の中の斧を見較べてから首を振る。空から降りそそぐ黄金の光に照らされて、メンチの握る斧はひどくちっぽけに見えた。
「たぶん、無理だな」
「だろうな」
「お前の握力でも届かないか?」
「ああ」
 メンチとマラキイ、どちらのドブキュア魔法少女の業も手に触れられる距離にしか、力を及ぼすことができない。そして、天高くに輝く方陣はどう足掻いても手の届かないところにあった。
「じゃあ、もう、どうにもならねえってことかよ」
 マラキイは黙ったまま、唇を噛み締めて頷いた。鈍い鉄の味が口の中に広がるのを飲み込む。
 ラゲドを倒せばなんとかなると思っていた自分の浅はかさを呪う。黄金の呪詛は術者の死後も問題なく進行していた。
 方陣が完成に近づくのを、メンチとマラキイはなすすべもなく見守ることしかできなかった。
「メンチ」
「え?」
 ふいに背後から声が聞こえた。
「悪い、遅くなった」
 振り返る。マラキイは目を見開いた。
「テツノ」
 隣でメンチが呟く。
「なんで、ここに?」
「メンチたちが戦ってるのが見えたから」
「そうか」
 メンチはゆっくりとテツノに近づいていくと、ぎゅっと抱きしめた。テツノは一瞬驚いた表情を見せてから、抱擁を返した。
「お邪魔だったかな」
 気まずそうな声が聞こえた。マラキイは声の方に目を向け、再び驚きの声を上げた。

【つづく】
 
 

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