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マッドパーティードブキュア 345
黄金律鉄塊と絡み合った黄金の指の本質を、マラキイはしっかりととらえる。律で構成されたものは律に縛られる。要衝を掴むことは、その全体を掴むことと同義だ。今や、黄金の手の管制はマラキイの手の内にあった。
マラキイは手のひらのなかに、黄金の手の脈動を感じていた。規則正しく、緩やかな黄金律の流れ。マラキイの両手は黄金の手とともにあった。侵食される恐れはない。
マラキイは声を聞いた。それは本当は声ではなかったのかもしれない。だが、マラキイの脳は、その思念を声として認識した。穏やかな声であるように聞こえた。
「君は誰だい」
マラキイは答える。
「俺はマラキイだ」
「マラキイは何者だい?」
「俺は、俺だよ」
少し間があって、声が続ける。
「ああ、私の進むさきにいた君かい」
「俺の進む先にお前がいたのさ」
マラキイは答える。その声が黄金の手のなかにある意識なのだということが、何の根拠もなくわかった。マラキイの魔法少女の手は、黄金の手をしっかりとつかみ、頭上ではメンチが今まさに斧を振り下ろそうとしているけれども、マラキイと黄金の手の言葉はとても静かで穏やかな場所で交わされていた。
「仕方がないね。そういうこともある」
「いいのかい?」
あっさりと引き下がる黄金の手に、マラキイは少し意外そうな声で返した。
「ああ、仕方がないよ。私は目的のために在るだけだから。それが成せないからといって、私はそれを残念に思ったりはしないよ」
「本当かい?」
「本当だとも。こんなところで嘘をついたって何にもなりゃしない。ただ」
黄金の手は少し言葉を切ってから続けた。
「もしかしたら、私の持ち主は腹を立てるかもしれないね」
「それならいいんだけれども」
マラキイは答える。黄金の手が何を考えていたとしても、それがもたらした被害は甚大だ。持ち主には少しくらい腹を立ててもらわないと感情が合わない。
そして、代償を支払うべきは持ち主だけではない。
【つづく】