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マッドパーティードブキュア 370
「お前はもう今までとは違う存在だ」
マラキイは眼差しに込められた怒りを受け流しながら言葉を続けた
「この街を整えたいというなら好きにすればいい。お前は失っただけではないのだから」
「そうか」
低い声で少女、ドブラックは言った。マラキイの声に劣らず、冷たい声だった。そこにもはや怒りはなかった。すくなくとも表には表れていない。その表情も塗り固めたような無表情だった。
「今は去るとしよう」
「逃がすと思うのか?」
メンチが斧を振りかざして威嚇した。
「やめろ」
マラキイは手を広げてメンチを制した。
「マラキイ?」
「ああ、もうそいつは脅威じゃない」
「選択を悔いる日を楽しみにしておけ」
天使は宣告するように告げると、腕を大きく広げた。3対の腕。しかしそのうちの一本は欠落していた。その欠落を補うように複雑に腕を組み合わせて、翼めいた形を作った。大きく翼を羽ばたかせると、ドブラックは空高く飛び上がり、姿を消した。
「てめえ!」
「よせ」
斧を投げつけようとするメンチをマラキイは再び止めた。
「どういうつもりだ」
「奴にとってはここで生き続ける方が後悔になるだろうさ」
「あ?」
「奴はもう歪められてしまった。奴はもう調和を手にすることはない。だって、この街でそんなものが手に入ると思うか」
「そういう、ものなのか」
「ああ、また悪さをしようとしたら、その時に止めればいい」
「そうか」
不承不承、といった様子だけれども、メンチは頷いた。
「終わりましたか?」
側溝のふたを押し上げて、セエジが姿を現した。
「なんとかな」
「それはよかった」
体についた汚れを払いながら、セエジは腰を伸ばした。蓋を押し上げて老婆や女神も出てくる。
「ずいぶん変わってしまったな」
マラキイはあたりを見渡した。街は黄金に塗り固められた静かな街並みになっていた。
「大丈夫ですよ」
セエジは言って、側溝を指差した。側溝のふたの下から七色の汚濁が流れ出始めていた。
【つづく】