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マッドパーティードブキュア 316

「やつらは不確定要素を嫌う」
 メンチはやけに軽そうな口調で言った。盟主の言い方を真似ているのかもしれない。マラキイは盟主に会ったことがないので、似ているのかどうか判別できないけれども。
「袋の中にあたしが潜んでるのは、ずいぶんと不確定要素になると思わないか?」
「そりゃあ、そうだけれども」
「それにこっそり潜んでおけば、やつらが知らない不確定要素になれる」
「そう言われたのか? 盟主に」
 こくり、とメンチは素直にうなずいた。マラキイは表情に出さないように気をつけながら、胸の内で首を傾げた。
 盟主の言葉には一理あるように思えた。今までの経験からすると、正黄金律教会の連中は確実な要素を積み上げて、事態を進めるのを好む。執着と言ってもいいほどだ。戦う必要があるならば、念入りに事前の調査を行い、圧倒的な戦力で確実に踏みつぶす。逆に言えば、そこに隙があるとも言える。予想外の要素を仕込むことができれば、計画を乱し、勝算を作り出すことができるかもしれない。
 その発想は理解できる。
 だが、一方で全面的に信用することもできない。袋のなかに潜むなんて、あまりに危険すぎるし、その結果なにがおきるかを想定することもできなかったはずだ。納品された袋がどのように使われるかも定かではなかったのだから。
 今回はたまたまマラキイと合流できたわけだけれども、そんなことを想定できるわけがない。あまりにも出たとこ勝負すぎる。
 マラキイは頭を振って、疑念を追い払った。盟主の真意は分からない。そうでなくともメンチというフィルターを通して誰かの考えを計ろうとするのは愚かな行為だ。今重要なのは今の状況だ。悪い状況ではない。すくなくとも、原生生物たちとマラキイだけでこの袋のなかにいるよりは。
 盟主とやらが何を考えて、そのような提案をしたのかはわからないが。マラキイとメンチがそろっていれば、この袋を抜け出すことができるかもしれない。

【つづく】

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