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マッドパーティードブキュア 337
それはたった今思いついた、作戦とも言えないような作戦だった。上手くいくとは思えない。それでもたった一つ思いついた作戦だ。試してみる価値はある。
「セエジ」
「はい」
セエジが俯いていた顔を上げる。マラキイはその目を見つめる。
「例の鉄っころはまだあるか?」
「鉄っころ? 黄金律鉄塊のことですか」
「ああ、それだ」
「一応ありますけれど」
ためらいがちにセエジは懐から鉄塊を取り出した。黄金律を保っているけれども、どこか歪な印象をもたらす鉄塊だった。
「どうするつもりですか?」
「あれをこっちに呼び寄せれねえかやってみるんだよ」
「呼び寄せる?」
「ああ、そしたら握り潰して叩き切れる。でも。女神さんとテツノを守る余裕はない。お前がやってくれ」
「でも、そんなこと、どうやって?」
マラキイは答えなかった。答える時間がもったいなかった。代わりに両手に魔法少女の力を込めた。混沌の街、ドブヶ丘の力を顕現させる。両手を大きく広げ、手のひら同士を打ち付けた。
ぱあぁん!
うねる音が地区に鳴り響いた。ドブキュアの力の込められた音が空気を複雑に揺らす。晴れ晴れとした青空が淀んだ七色に染まる。
「柏手……か」
セエジが呟く。柏手は己の領域を世界に知らしめる行為だ。神事において柏手によって邪を払うのと同様に、混沌の力で満ちた手のひらを打ち鳴らせば、調和の暴力に抵抗する手段となる。
「でも、こんなのじゃ一時しのぎにしか」
「まだだ」
ぱあぁん!
再度、マラキイは手のひらを打ち鳴らす。天の腕の周りの青空が淀む。だが、腕は即座に淀みを振り払っていく。
ぱあぁん!
三度、マラキイが手のひらを鳴らす。腕は煩わしそうに青空を描き直す。
「だめです。書き換えが間に合わない」
「いや、来るぞ」
マラキイが鋭い声を発した。腕はゆっくりとマラキイに向き直った。どうやら、騒音の原因を排除することに決めたようだ。
マラキイはメンチに目線で合図を送った。
【つづく】