![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/149136585/rectangle_large_type_2_39513c6adb4e9e1c1f8d00b329e40179.png?width=1200)
マッドパーティードブキュア 307
「そんな目で見ないでよ」
女神は不満げに口を尖らせた。
「わたしだってできるなんて知らなかったよ」
「そんな曖昧な自信で...…」
セエジはそこまで言って口を閉ざした。歪な黄金律鉄塊を握りしめる。柔らかな感触が手のひらに返ってくる。無秩序に侵食されたその感触は居心地が悪くて深いだ。
「逆流してしまうかもしれなかったんですよ」
「それはあなたも同じでしょう」
「いなくなって困るのは、女神様の方でしょうに」
女神が肩をすくめる。幼い風体に似つかわしくない、ひどく大人びた仕草だった。
「時間がないのでしょう、続けなさいよ」
「わかっていますよ」
すこし頬を膨らませて、セエジは黄金律鉄塊に、レストランの構造に意識を滑り込ませる。驚きの感情が胸を波立たせた。
構造の内部のありようはすっかり姿を変えていた。ゆらゆらと不確定だった諸要素がいまでは一つ一つが互いに結び付けられた確かな存在を保っていた。その上で空白の表面は整然と立ち並び、あらたな律が書き込まれるのを待ち構えていた。
「本当に?」
「あたりまえだろう」
自慢げに鼻を鳴らす女神を無視して、セエジはレストランに黄金律鉄塊の秩序を流し込む。清水に墨を流すように静かに律はレストランの構造に広がっていく。セエジの意識が命じるよりも遥かに速い。
めきめきと目に見える部分にまでレストランの変化は及んだ。曖昧で歪んでいた部分は姿を消し、強固で正気に満ちた姿を見せていた。
「この建物は、このような形をしていたのですね」
空から声が降ってきた。
「ああ、すみません。変に変えてしまって」
セエジは気まずそうに目線を逸らしながら言った。必要な変更だったとはいえ、店は大きく在り様を変えてしまった。再び元の姿に戻せるとはかぎらない。
「いえ、必要な変更だったのはわかります」
「すみません」
セエジはもう一度謝った。声が降ってくる。
「それよりも、備えた方が良いのではありませんか?」
【つづく】