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マッドパーティードブキュア 292
「さて、どうする?」
マラキイは一歩人面の獣に向かって足を踏み出した。慎重に。とどめのタイミングは見誤らないように。だが。さらに一歩足を踏み出す。あまりのんびりする時間もない。
「おとなしく事情を話すなら逃がしてやってもいいが」
「そういうわけにもいかねえな」
獣はマラキイを見つめ返してくる。虚勢か意地か、それともまだ何か策があるのか。獣の目の輝きは失われていない。
「まあ、野蛮な獣たちに期待をしていたわけじゃあない。手前らをぶち転がすのなんて私一人で十分さ」
その言葉とともに獣の体中の袋がゆっくりと膨らんでいく。
「テツノ」
隣の薄い影に小さく声をかける。テツノがかすかな視線をマラキイに向ける。
「お仲間をあいつに向けられるか?」
「やってみる。ずいぶん忌々しい目にあってたみたいだから、きっと助けてくれる」
テツノが頷き、影が拡散する。囁き声がそこかしこから流れてくる。獣たちへの指示は影の囁きでのみ出すことができる。マラキイには聞こえない声だ。きっと人面の獣にも指示の内容は聞こえていないだろう。ざわめき自体は耳に届いているのかもしれないが。
騒めき声が止まる。原生生物たちが直線の獣にギラギラとした目線を向ける。ばらばらの動きだ。だが、その意思は一つのようだった。
直線の獣の体中の袋は膨らむのを止めていた。どの袋もまん丸になるまで膨らんでいる。準備をさせてしまったが、問題はない。重要なのは確実に勝つこと。心を砕くこと。
「来るかい?」
笑って問いかける。直線の獣がピタリと動きを止める。マラキイに殺意のこもった目線を向ける。軽く右足を引いて右手を前にかざす。来るなら一点突破だろう。ならばそれを止めさえすればよい。シンプルな結論になった。
「いねやぁ!」
いままでになく高く大きな破裂音が鳴り響いた。獣の姿が消える。
衝撃に備える。
これが最後の一撃になる。ようやく至った考えなくてもよい段階だ。
【つづく】