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マッドパーティードブキュア 310

「なんでここに?」
 セエジの思考は頭のなかでぐるぐると暴れまわる。さっきの光球の七色のよどみが認識にこびりついて、世界をゆがめてしまっているような気分だった。セエジは目をつむって拳でごしごしと瞼をこすった。瞼越しに鈍い痛みを感じる。どうやら認識阻害を受けているわけではないようだ。
「え?」
 セエジに問いかけられて、テツノはあたりを見渡した。
「どこ? ここ」
 ぼんやりとひとしきり店内を認めてから、ぽつりとテツノが呟いた。
「レストランですよ」
 セエジは答える。自分よりはるかに混乱しているテツノを見たことで、少しだけセエジの混乱は収まっていた。ほんの少しだけ。
 セエジの言葉を聞いてから、一瞬の間を開けて、テツノの目が大きく見開かれた。その目線がセエジの顔を捉える。
「セエジさん? え、どうして?」
「マラキイさんはどうしたのですか?」
 テツノはマラキイとともに方陣の成立を阻止するためにこの店を出た。けれども、今マラキイの姿はどこにも見当たらない。
「ああ、そうだ、マラキイさんだ」
 セエジの問いかけにテツノは再びうろたえた声を上げた。途切れ途切れにたどたどしく、言葉を続ける。
「つかまってしまったんだ。私たちは、袋、そう袋につかまって、罠だったんだ、逃げられなくて、それで、マラキイさんが私だけ逃げろって」
「落ち着いて」
 まくし立てるテツノを女神が優しい声で遮った。テツノが女神に目を向ける。テツノの目がさらに大きく見開かれる。
「女神様!?」
 テツノが素っ頓狂な声を上げた。さらなる恐慌に陥りそうになったテツノの肩を女神は優しくさすった。
「いいよ、ゆっくり話しな。話せることから、一つずつでいいから」
 女神の言葉にテツノはゆっくりと呼吸をした。存在感が呼吸に合わせて薄くなったり濃くなったりする。
 しばらくそうしてから、テツノは口を開いた。
「作戦は失敗しました。私たちの目論見は読まれていたようです」 

【つづく】

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