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マッドパーティードブキュア 340
その確かな目線の先を辿る。テツノが見つめていたのは、メンチの背中だった。メンチは斧を振り上げて、振り下ろす。奇跡的なタイミングで、辛うじてメンチの斧は黄金の腕の表面を砕く。勢いを殺さず、メンチの斧が円を描き、黄金の指先をかちあげる。
その度にわずかにインパクトの瞬間を変えているのがわかる。マラキイが示した整ったリズムの危険性は、メンチに伝わっているようだ。タイミングをずらし、リズムを乱しながら、メンチは何度も何度も指先を弾いている。黄金の指先は破砕を恐れることなく、飽きることなくメンチに迫る。メンチを、その背後にいるマラキイを、黄金律鉄塊の結界で守られているテツノや女神やセエジを、書き換えようと掴みかかってくる。マラキイの足止めなしに、メンチが指先を弾いているのは、メンチの超常の集中力の賜物だ。だが……。
「ぐう!」
メンチの口からうめき声が漏れた。舞い散った黄金の文字式が今までより少ない。叩きつけた角度がずれていたのだろうか。メンチはそれでも歯を食いしばり斧を振り上げる。
「あれじゃあ、いつまでもは持たないですよね」
テツノが呟いた。マラキイは声を絞り出す。
「ああ、多分な」
立ち上がろうと、肘をつこうとして、痛みにうめき声を上げる。怯んでいる暇はない。メンチを助けなくては。
「セエジさん」
テツノが呼び掛けた。セエジがテツノの方を向く。マラキイもテツノの顔を見上げる。首を傾げる。
「ちょっといいですか」
「どうしました?」
マラキイにはテツノの様子が何か今までと違うように見えた。その目がなにかかたくて強い光を放っているように思えた。
「その袋を貸してください」
どこか声ならざる声を聞いているかのような、確信で形作られた声だった。待て。テツノは地面に手をつき立ち上がる。傷口から身を焼く痛みが全身に走る。だが、焦りが痛みを超越した。
「どうするつもりだ」
「私も戦えます」
「その必要はない」
【つづく】