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マッドパーティードブキュア 371
黄昏の黄金は日に日に短くかすんでいっていた。
マラキイは曖昧に消える夕日を少し名残惜しく眺めた。
黄金律のもたらした晴れ空は、ドブヶ丘の霞に覆われてほとんど見えなくなっていたけれども、昼と夜の境目の黄昏時だけはかすかにその名残を残していた。
マラキイはそれを美しいと思った。黄金律の秩序は胸糞の悪くなるほどに、不快なものだったけれども、それが残した晴れ空だけはしばらく眺めていたくなる程度には良いものだった。いずれ街に吞まれて消えゆくものだとしても。
あるいは、とマラキイは考える。あの空を美しいと感じるのも、本来の自分ではないのかもしれない。自分の中に取り込んだ黄金の指先や、獣たち、ごろつきや怪物。それがマラキイの目を通して空を見て、美しいと思っているのかもしれない。それでもマラキイは悪くないと思った。
「兄ぃ、またここにいたんでやすか」
背後から声がした。振り返る。そこにいたのはズウラだった。
「なにかあったか?」
「あー、その」
ズウラは答えづらそうに頭をかいた。
「なんだよ」
「その、女神さんが喧嘩をはじめやして」
「ほっとけほっとけそんなもんn、動けるようになってはしゃいでんだろ」
あきれ顔でマラキイは答える。黄金の律の支配から脱して元の身体を取り戻していらい、女神は毎日のように面倒ごとを起こしていた。酒を飲んでは人に絡み、酔っぱらってそこらで潰れ、あるいは質の悪い儲け話にのって自衛団とドンパチを始める。
女神に対するマラキイの敬意もそろそろ尽き始めていた。
「それが、その」
ズウラは変わらず言いづらそうにもじもじとしているのを見て、マラキイは首を傾げた。ズウラにはまだ女神に対する忠誠心が残っているのだろうか。
「相手が、ですやすね。例のあの天使でやして」
「あー」
マラキイはため息をついて立ち上がった。
「行ってもらえやすか?」
「行かんわけにもいかんだろ。テツノの店か?」
「そうでやす」
【つづく】