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マッドパーティードブキュア 323
「あった」
メンチは目を上げて、少し離れた高台の上を指差した。
マラキイもそちらに目を向ける。言われて見ると、幾重にもカモフラージュが施されているが、そのあたりだけ混沌の密度が薄いように見えた。
「あのあたりだけなにか変だ」
「ああ」
マラキイは頷いた。そこに何があるのかはわからない。だが、今のこの状況で秩序の書き換えに身をさらしている存在が味方のはずはない。ならば、対処すべき者がそこにいると考えるのが自然だ。
「行くぞ」
小さく呟く。メンチが頷く。
高台の上には何もないように見えた。澄み切った空気を通して空に浮かぶ黄金の方陣が良く見える。けれども
「いるな」
「ああ」
メンチとマラキイは頷きあった。このように澄み切った空気など、この地区に存在するはずがない。
確かに、そこには何かがいる。おそらくは敵対するものが。
マラキイは気づかれないように、口のなかだけで技の名を唱えた。
「ドブキュア、マッドネスプライヤー」
隣で、メンチが同じく口のなかで技の名を呟く。
「ドブキュア、マッドネスストンプ」
叫べない分、大幅な魔法力を籠めることはできないが、不意を打てば十分に決定打を与えられるはずだ。
マラキイはメンチの目を見て、息を合わせる。
一、二、三
マラキイは音もなく清浄な領域に忍び寄り、つかみかかる。見えない何かが魔法の手のひらに触れる。滑らかな絹のような手触り。逃がさないようにしっかりと握りしめる。
「な、なんだ!?」
なにもない空間からうろたえる声が聞こえた。
マラキイと同じように音もなく、メンチが忍び寄ってくる。スムーズな動きで斧を振り上げて、軽い動きで振り下ろす。
「ぐぅう」
声を漏らしたのはマラキイだった。魔法の手のひらに焼け付くような痛みを感じた。魔法力の締め付けが緩む。
「しまった」
メンチが目を見開く。斧の軌道が微かにぶれる。
マラキイの手の甲から毛髪一本のところを斧がかすめた。
【つづく】