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マッドパーティードブキュア350
セエジは答えない。だが、首を有ふりさえしないことが問いかけへの肯定を伝えていた。
重苦しい沈黙が流れる。清浄な空気が肺を蝕んでいるようで、マラキイは胸がムズムズするのを感じた。
「なぁあああ!」
突然の奇声が静寂を破った。メンチの叫び声だった。メンチは奇声を上げながら斧を振り上げていた。そのまま見事に整えられた道端の建物に斧を叩きつけた。
黄金に輝く欠片が宙を舞った。欠片の中に混じった黄金の文字式が絡み合い、元の形状へ戻ろうとする。形が修復される前に、メンチが再度斧を叩き込む。
「なにをしてる?」
メンチの突然の奇行にマラキイは呆気にとられた。あまりの事態に錯乱してしまったのだろうか。止めようと駆け寄ろうとする。
「待ってください」
止めようとする動きは、寸前で、セエジの言葉で妨げられた。
「セエジ、でも今余計なことをするのは……」
「いいえ、案外よい作戦かもしれません」
そう言って、セエジは破壊行為を続けるメンチの背に目をやった。
メンチは淡々と斧を振り上げて、振り下ろしている。その度に建造物は砕け散り、そしてすぐに元の形を取り戻している。僅かにメンチの破壊の速度が上回っているのか、少しずつ破壊の痕跡が蓄積していっている。だが、それもごく僅かな差に過ぎない。一瞬でも手を止めれば、すぐに元の形に戻ってしまうだろう。
そうか、とマラキイは納得する。ならば、破壊の速度を上げてしまえば良いのかもしれない。壊す手が増えれば速度は増す。
両手に魔力を込める。
「いいえ、まだです」
セエジが静かな声で制止した。
「マラキイさんはまだ、力を溜めておいてください」
「まだ?」
マラキイは片眉を上げた。
「なにかを待つのか?」
「ええ、僕の計算が正しければ、もうすぐ奴が来るはずです」
「奴ってのは……?」
マラキイが疑問を最後まで口に出す前に、答えの方が先にやってきた。
「この地区での破壊行為は禁止されています」
【つづく】