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発狂頭巾二世
黄昏の荒野、二人の人影が相対していた。
サムライと発狂頭巾。互いににらみ合う。
「まあ、いいさ」
サムライが不敵に笑った。吐き出された言葉は上品そうな風体とかけ離れたひどく下卑た言葉だった。
「お前をやっちまえば、俺のやったことを知るやつはいなくなる。そうすれば、俺はこの国の英雄だ」
がちゃり、とサムライはカタナを構えた。ふぉん、と不気味な音を立てて刀身が青く輝く。触れただけですべてを切断する超電磁ブレードだ。
男は相対する発狂頭巾に、まっすぐに刀を向ける。
「悪魔の汚名は、てめえに押し付けさせてもらってな」
「そうか」
発狂頭巾は、低い声で答えた。サムライの言葉を聞いているような、まるで耳にも入っていないような、平坦な声だった。その様子にサムライは怪訝な顔で答えた。
「なんだ?」
発狂頭巾はなにも答えない。
その腰には一振りのカタナ。なんら仕掛けのないただの鉄の塊だ。超電磁ブレードならたやすく切断できる。
だが、たらりと、サムライの額に汗が浮かぶ。サムライは動けない。発狂頭巾もまた動かない。
一陣の風が二人のあいだを駆け抜けた。頭巾が風にあおられる。
ぎらりと、二つの光が輝いた。
不気味なその光は発狂頭巾の双眸だった。妖しくすべてを拒絶するような黄色い輝き。
一歩、サムライは小さく後ずさった。
「なんだ、お前は」
サムライは呟く。発狂頭巾は何も答えない。
「なんだ、お前は」
サムライは繰り返す。発狂頭巾は答えない。
「なんなんだ、お前は!」
三度、サムライは繰り返す。ほとんど悲鳴のような叫びだった。発狂頭巾は答えない。ただ、なにかを口のなかで小さくつぶやいている。
サムライは発狂頭巾を睨み見つける。荒い呼吸。
発狂頭巾の言葉が微かに聞こえてくる。
「……は……ヌシか……か」
発狂頭巾も同じ言葉を繰り返していた。静寂のなか、その呟きが聞こえる。
「狂うておるのは、お主か拙者か」
ぎらりと発狂頭巾の双眸が光る。
一陣の風が吹き抜けた。