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マッドパーティードブキュア 317
それは魔法少女ドブキュアの洞察力がもたらした、かすかな予感だったのかもしれない。それとも、単に絶体絶命の窮地で見知った顔をみつけたという安堵がもたらしたまやかしの気休めだったのかもしれない。それでも、文字通りの行き詰まりの袋小路のように思えていたこの領域が、ただの息苦しいだけのちっぽけな鳥かごに見えてきた。
「出るぞ」
マラキイはメンチの肩を軽くたたいた。メンチはきょとんとした顔で、マラキイの顔を見つめてきた。
「お前が来てくれてよかった」
思わず漏れたのは、自分でも予想もしていなかった言葉だった。発してから、言葉の意味を認識する。マラキイは自分の耳が熱くなるのを感じた。メンチの視線がひどくくすぐったくて、暗闇の地平に目線を移す。
閉じられた世界の果ては遠いけれども、たどり着けない場所ではない。
「メンチ、お前この獣たちに指示出せるか?」
マラキイは尋ねた。メンチはこの街の混沌の力を身に着けている。どういう経緯でそんなことになったのかはわからないが、その力の有効性をマラキイは知っていた。
「ああ、たぶんできるけど、どうした?」
「ちょっと、世界の果てまで乗せてってもらおうぜ」
マラキイは獣のうちの一匹を指さしながら言った。
◆◆◆
獣の背に乗るのは存外難しかった。グネグネと波打つ不定形の背中は安定した座り方を見つけることができない。結局、マラキイが魔法の握力で背中から延びる触手を掴み、メンチがマラキイにしがみつくことでなんとか走る獣から振り落とされることなく世界の果てにたどり着くことができた。
「ありがとう」
少しふらふらしながら、メンチが原生生物に礼を言った。獣は恭しく頭を下げてうなってみせた。
「さてそれでどうするんだ?」
メンチが目の前の壁を見上げながら言った。とらえどころのない壁が視線を遮っていた。見ているだけで目が痛くなるような、視線を向けることさえ拒絶してくるような壁だった。
【つづく】