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マッドパーティードブキュア 330

 メンチが斧を振り上げ直すよりもはやく、ラゲドが結界を張り直すよりもはやく、マラキイはラゲドに肉薄していた。ラゲドの腕を掴む。ラゲドが声を上げる間はあけなかった。即座に、マラキイは手のひらを閉じた。
「ドブキュア! マッドネスプライヤー!」
 ラゲドの腕を掴んでいた感触が消える。
 一瞬、耳の痛くなるような静寂があった。
「ぐわぎゃああああ!」
 悲鳴が上がった。ラゲドの端正な顔が歪む。肘から先が消滅した腕をめちゃくちゃに振り回す。
「マラキイ! てめえ!」
 地面の上でのたうち回りながラゲドが喚き散らす。
「この程度でぇ!」
 ラゲドの周りに呪文陣が浮かび上がる。消滅したはずのラゲドの腕をかたどって輝く文字の列が整列する。黄金の文字列による再生。だが
「させるか!」
 メンチが叫ぶ。落雷の一閃。無事だった方のラゲドの腕が宙を舞う。
「――――!」
 声にならない声が、ラゲドの口から漏れる。ラゲドの両目がメンチとマラキイをにらみつける。痛みに歪んだ口がなにごとかを呟く。腕の形を成しかけていた黄金の呪文陣がメンチめがけて飛来する。マラキイは呪文陣を受け止めて、握りつぶした。さしたる感触もなく、文字の列は砕け散った。
「終わりだ」
 メンチは微塵のためらいもなく斧を振り下ろした。情け知らずの斧は質量のままにラゲドの首と胴体を切断した。
「あ」
 血飛沫が上がり、力なくラゲドの胴体が崩れ落ち、端正な顔が地面に転がった。
「ははは」
「なにがおかしい?」
「これで万事解決めでたしめでたしとでも?」
「そうは思っていないさ」
「式は起動しました。あなたたちが何をしようと、私が死のうと、そんなことは些事です。結果は変わらない。ははははははははは」
 ラゲドの生首は天を仰いで笑った。その眼差しの先では法人から生えた腕が黄金に輝いていた。
 ふいに笑い声が途絶えた。
 見るとラゲドの顔をメンチの斧が両断していた。
「それで、次はどうする?」

【つづく】

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