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マッドパーティードブキュア 318

「この壁、お前の斧で切り開けるか?」
「いや、難しいかな」
 壁を見上げてメンチは唸った。
「だよな」
 壁と言っても具体的に触れられる障壁がそこにあるわけではない。広く薄く分布する領域がふわりとした反発を持って内側から内と外を隔てている。
「さすがに形がないものは切れない」
 メンチの細い指先が、ごつごつと七色の錆が浮いた斧の刃をなでる。
「何か策はあるのか?」
 メンチがマラキイに尋ねてきた。すがるような目立った。マラキイはため息をつく。自分はそんな目で見られるような側の人間じゃない。策を弄するようなタイプじゃない。それはメンチだって知っているはずだ。マラキイは力だ。その運用を細かく考えることはしてこなかった。そういうことはズウラに任せてきた。別に丸投げするつもりだったわけではない。自分の力を一より効果的に運用するにはそうするのがいいと考えていただけだ。その作戦に乗るかどうかを決めるのはマラキイだ。良いように使われていたわけじゃない。手綱はマラキイが握っていた。
 けれども今はズウラはいない。セエジも、ハグラも。作戦を考えるやつは誰もいない。メンチと自分でどちらが良い案を思いつくかは、考える間でもない。
「ああ」
 そして、考えてみれば、それほど難しい問題はなかった。今のマラキイは魔法少女ドブキュア、ドブプライヤーなのだ。そしてともにいるのはドブアンディフィート。二人がそろっていればできないことはあまりなくなる。
「いつもどおりのことをすればいいんだ」
「え?」
「変身できるか?」
「そりゃあ、できるけれども」
「じゃあ、変身してみな」
 メンチは戸惑いながら頷く。斧を構え、呟くように宣言する。
「ドブキュア! マッドネスメタモーフ!」
 七色のドブの奔流がメンチを包み込み、晴れる。
「命もたらすカオスの揺籃、ドブディフィート!」
 少し戸惑った口調で、七色のドブ魔法装束を身にまとったメンチは控えめに名乗った。

【つづく】

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