「液体料理」という新たな食事の形 #ニューウェ〜ブ京都案内
新連載、「ニューウェ〜ブ京都案内」。
HOTEL SHE, KYOTOは、ホテルをライフスタイルの試着を行うことのできる場だと考え、ご宿泊いただく方に今まで日常生活の中で出会うことのなかった価値観やアイテムに出会っていただくためのさまざまな施策を行なってきました。自分だけのプライベートな空間で生活を営みながら、ホテルのキュレーションによる非日常のインスピレーションがもたらされる場所。そんなポジティブな予定不調和が生まれる場所が、私たちHOTEL SHE, KYOTOが目指すホテルの在り方です。
そもそも、旅に求めるものってこの予定不調和だったりしませんか?私も先日、動物と触れ合うつもりで行った島が、実は戦争の歴史が多く残る場所で多くのことを学ぶきっかけになったということがありました。旅って多分、自分の想像通りに進んでも面白くなくて、こんな新しい文化に触れた、みたいな、そういう自分の世界が広がるような出来事が起きるのが醍醐味だったりするのだと思います。
観光雑誌に載っているような王道の京都観光も良いけれど、HOTEL SHE, KYOTOにご宿泊いただく皆様には、せっかくなら従来の伝統的な京都観光からちょっと外れた場所で、ポジティブな予定不調和に出会う旅もご提案したいなと思っています。そんな想いから、HOTEL SHE, KYOTOスタッフの独断と偏見でお届けする、「ニューウェ〜ブ京都案内」の連載をはじめます。
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ニューウェ〜ブ京都案内 Vol.1
京都随一の繁華街、四条河原町。
河原町通りを少し東に入った高瀬川のほとりに、ひっそりと佇む完全予約制のバー「nokishita711」があります。
このバーで提供されているのはカクテルではなく「液体料理」。お肉やお野菜から虫や草木まで、あらゆる素材の味わいをさまざまな方法で抽出したり発酵させたりしてひとつのアルコールドリンクにされているようです。1.5時間のカクテルフリーフロー(飲み放題)制で、すべてのドリンクに液体として抽出する際に出る搾りかすや出汁ガラなどを使ったスナック「虫養い」が付いてきます。
私がお邪魔した日のラインナップは18種類。メニュー表には私が知っている「ジントニック」みたいなアルコールドリンクの名前はなく、各ドリンクごとに含まれる食材(食材ではなさそうなものも)が羅列されています。
私が最初にオーダーしたのは11番は「栗毛カニ、夏みかん、マスカット酢、ハバネロ、ココナッツオイル、黄茶、馬告、ジン」。これだけを見ても一体何が、どういった形状で出てくるのか全く想像がつかないのですが、己の感覚に身を委ねてとりあえず出てくるのを待ちます。
爽やかそうな見た目をしたドリンクが出てきました。横にあるお団子が「虫養い」です。
蟹の香りと夏みかんの爽やかさ、最後にピリッとくるハバネロ。酸味とハバネロの辛味が作用して徐々に口の中が温かくなっていくような感覚です。飲みながら各素材の味覚を感じ取り、そしてそれらの素材が交わってちょっとずつ口の中が変化していく様を楽しむ。こんなに味覚・嗅覚を研ぎ澄ませて、意識を集中させて食事をしたのははじめてかもな、とか思っていると次のドリンクが。
こちらは「岩牡蠣、プラム、どくだみ、乳清、水酛純米酒、ジン」のドリンク。このドリンクに対するスナック(虫養い)は牡蠣とプラムをジェラートにしたものです。
三杯目。「キノコ、ビーツ、古木、屋久杉、30年古酒、ジン」のドリンクです。
…まさか屋久杉を舌で楽しむ日が来るとは。オーナーさん曰く、屋久杉で作られた家具のリペアの際に出てくる端材を入手されているのだそうです。また、屋久杉と併せてこのドリンクの素材のひとつとなっている「古木」。神社とかでたまに見かけたり、古木を巡ってその地域の歴史を知る、みたいな観光の仕方もあったりしますよね。どこかの地域の人々の生活の営みを長い間見守ってきた歴史の証人である古木を、少し前まで誰かの家に置かれていた家具の一部であった屋久杉と共に、食事として楽しんでいる状況。食事を通して地球上の見知らぬ地域の歴史、見知らぬ家庭の生活に思いを馳せる経験はnokishita711でしかできないでしょう。
「液体料理」という新たな食事の形
nokishita711さんで提供されている「液体料理」は、これまでカクテルの素材として考えたこともなかった、この世に存在するあらゆるものから味覚を抽出し、その旨みを最大限活かせるように考え尽くされた結果生まれたドリンクでした。どのドリンクにもレストランの食事のような素材のバリエーションと調理行程があり、確かにカクテルではない、「液体料理」という新たな食事の概念がそこにはありました。
自分の中にあった食事という概念が広がるような、飲食というものの新たな可能性を感じるような、そんな体験。
HOTEL SHE, KYOTOも、常日頃からホテルの可能性を信じ、ホテルの可能性を広げていくことをミッションに掲げています。なので、ホテルをライフスタイルの試着を行うことのできる場だと考え、ホテルにレコードを置いたり、色んなアーティストさんとコラボをしています。
ホテルとアルコール。ジャンルもやっていることも違うけれど、目の前にあるものの可能性を信じ、その可能性を広げていくことに奮闘しているnokishita711さんと我々HOTEL SHE, KYOTOは、もしかしたら根っこの部分では、同じような原動力に突き動かされているのかもしれない。この「液体料理」体験を経て、改めて私たちHOTEL SHE, KYOTOも、新たな価値観と出会う瞬間を作り出していきたいと思った、そんな帰り道でした。
完全予約制のお店になりますので、気になった方は事前にご予約だけお忘れなく。