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ラブホ滞在時間30分の客|会ってヤって帰るのは幸せなのか


(311号室 精算中です)

(315号室 精算中です)

(501号室 精算中です)

(220号室 精算中です)・・・

忙しい。ラブホテルの清掃員は朝から忙しい。

それもそのはず。今日は土曜日の朝だ。


キンタマキラキラ金曜日に
浮かれたバカどもが宿泊した
汚部屋の清掃に追われる。


でも土曜日の朝イチは
やりがいがあると思っている。


土曜日の午前中は退室が重なる事が多く、
清掃をしながら退出した部屋の
チェックも回らなければならないのだ。

清算し、退出した部屋は
忘れ物とタバコの火元確認をしに
すぐに向かう事になっている。

そして、土曜日は休憩利用のカップル達も
午前中からどんどん入ってくる。

部屋を作っても作っても、
空室ができない無限ループが
ラブホテルの現実だ。

清掃中は客室のテレビやモニターで
空室状況や清掃待ちの部屋が常に
確認できるようになっている。

もちろん、お客さんの入退室や
滞在時間も全て確認している。

そんな時、お客さんの退室を
知らせるアナウンスがなった。

(208号室、精算中です 滞在時間32分)


たったの30分程で退室した部屋があった。


30分という事はお風呂が使われていなく、
比較的キレイな部屋かもしれない。


もしかすると入室後に急用が出来て、
ほとんど手をつけていない部屋かもしれない。


そう思えるのはラブホ清掃員初心者だからだ。


滞在時間32分の部屋を開けると
シャワーを使用したのだろうか、

部屋は蒸気に包まれて生温かかった。
浴槽にはお湯が張られており、

濡れた体のまま、ベットで行為が
行われたのか、掛け布団まで濡れていた。

バスタオル、フェイスタオルも散乱し、

床には水の足跡があった。


サービスのスキンは2つ開封されていて、
ゴミも床に散らかっている。


30分でセックスをして帰る。


これは珍しい事ではなかった。

“いつもの事”そう思えるようになったのは


ラブホテルの清掃員になって
1ヶ月が経った時だった。

ラブホテルの利用目的はさまざまだ。

利用時間も決まっているわけではない。

だから私達、裏側で働くスタッフ達は
お客さんがいつ来て、
いつ帰るのかなんて知らない。

不特定多数の男女が自由に
遊戯して帰る、大人の空間。

30分しか時間が無い時でも
一緒にいて愛を確かめ合うなんて、
最高なんじゃないかと思う。

むしろ人間らしくて好きだ。

もしもこれが不倫関係だったとしたら、
30分は決して長い時間ではないが
貴重なのかもしれない。


30分という時間を有意義に
使える人は世の中に何人いるだろうか。

時間の使い方なんて、
どんな形であろうと他人には関係がない。

実らない関係でもいい。
偽りの愛でもいい。
一瞬の快楽で私達は幸せになれるんだ。

「えー32分って。何しに来たの?さっき掃除したばっかりなんだけど」

長年勤めている、
ラブホのおばさん達は揃って声を上げる。
おばさん達の30分はいつも文句を言っている。

「30分しか居ないなら、来るなよ。お風呂も使われてるし、最悪ー」

「どうせ、不倫でしょ」

「ありえない。もうやだー疲れたー」


少しイレギュラーなカップルがくると、
おばさん達は口を開きだす。

くだらないことで騒いだり、
不倫を否定するような暴言も飛び交う。

不倫を肯定する訳ではないが
それぞれ事情があり、私達のような他人には
関係のない事だ。

そして、30分滞在のお客さんは
不倫ではなく夫婦かもしれない。


仮に夫婦だった場合は子どもが小さく、
夫婦二人の時間が取れない為に
空いた時間でホテルを
利用したのかもしれない。

ラブホテルは空間を提供する仕事だ。
安心して、安全に利用できるような
空間を提供しなければならない。

そして、どんな形の愛も私は応援したい。

“人生一度きり”


良く聞く言葉かもしれないが、
その一瞬でも一緒に居たいと思える人に
出会える事が奇跡だと思わないか?

それでも愛し合う事はいけないことなのか。

30分、妄想や想像だけで
文句や悪口を言っているおばさん達より、
30分、愛を確かめ合っている男女の方が
人生の満足度は遥かに高く、美しい。


でももっと美しいのはこんな事を考えながら
ラブホテルの清掃をできるようになった私だ。


-ほてるちゃん-

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