夏乃穂足
BL掌編。 関心のない方、18歳未満の方は回れ右でお願いします。 目次 https://note.com/hotaru_natsuno/n/n2e2d5aa44eb2
素敵な記事との出会いも一期一会。 自分で読み返すための備忘録兼レビューです。
二度、長いブランクを経験した商業作家が、長編を書ききる地力をつけるために模索する中で出会った記事や書籍などを収拾したマガジンです。同じ悩みを抱える方の参考になれば。
これまでに刊行された著作の番外SSです。全て官能表現ありのBL小説ですので、関心のない方、18歳未満の方は回れ右でお願いします。
【自己紹介】 BL小説家の夏乃穂足です。 なつのほたると読みます。 はじめましての方ははじめまして。お久しぶりの方はこんにちは。 ここ数年、商業小説のお仕事では期限を定めないお休みをいただいており、現在再始動を目指している最中です。 書いては休み、というていたらくではありますが、これまでに16冊の本を出していただいています。 noteでは、気ままに綴ったBL掌編や既刊の番外編、日常の雑記などを、のんびりアップしていく予定です。 お時間があれば、覗いていっていただけると
今日は更新できなさそうです。 『雪と椿』、あと1話(予定)なので、近日中には完結したい!
※BL小説 椿はもどかしい思いで文を開いた。 * * * * * * * * 身代金の他に、椿が当座暮らしていけるだけの金子(きんす)を使いの者に託しおいた。 また、勝手ながら小商いをするのに手頃な場所も、用意させて貰った。 しばらくそこに住まって疲れを癒し、のんびりと暮らしたらいい。 暮らしに馴染んで気力が満ちてから、何でも椿の好きな商いを始めてはどうかと思っている。 ともあれ、何も焦ることはない。まずは市井の暮らしを楽しんだらいいと思う
※BL小説 「そんな」 喜びよりもまず、不安がこみ上げてきた。伊織の身なりを見ていれば、堅実な暮らし振りが知れる。武家でも大身ならばいざ知らず、伊織のような若い侍が、それだけの金をどう工面しようと言うのだろう。 ――何か無理なことでもなさるおつもりではないか。 形のない不安が冷え冷えとした恐れへと変わっていく。 「そんな……花形の牡丹ならそんなお話もあるかも知れませんが、わたしなんぞに請け出すほどの価値はない」 「価値はあるとも」 「椿はこのままでも幸せです。どうか御
※BL小説です。性的描写があります。興味のない方、18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。 「あ、雪村さま――ア! あぁ……!」 開かれることに慣らされた体は、軋みもせずに伊織のものを飲み込んでいく。 「痛みはしないか」 温かな声が、艶を帯びている。痛むどころか、挿入されただけで悦くてたまらなくて、繋がった場所から全身が溶けてしまいそうだった。 「きもち、い……から」 頭の中に霞がかかっていて、体感と伊織の肌の温かさ、声だけが霞を越えてくっきりと迫ってくる。 「……きむ
※BL小説です。性的描写があります。興味のない方、18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。 行灯の艶めかしい明かりが夜具の上で揺れている。いや、揺れているのは、伊織の下で肢体を絶え間なくくねらせている椿だろうか。 衣擦れの音と抑えた吐息、淫靡な水音が部屋に響く。 日の高いうちに外に出たことなど、一座に引き取られてから一度もないから、椿の肌は市井の女とは比べものにならぬほど白い。その白い膝が、大きく割れた赤い椿模様の着物の合わせから覗き、象牙でできたような二つの艶やかな山
※BL小説 漆塗りの重い高下駄ではどんなに急いても歩く速さは知れていて、気持ちだけが先へ先へと転がっていってしまう。茶屋の座敷の前に着いた時には、椿は着物の上から見てそれと知れるほど、胸を大きく喘がせていた。 座敷の前へ崩れるように座り込んだ椿は、少しでも気を落ち着けようと、今しも襖を開け放とうとしている禿に仕草で待てと合図をして、息が整うのを待った。 開いた襖の前で三つ指をつく。 「……椿です」 待ちきれずに頭を上げると、そこには昼夜を問わず思い浮かべていた愛しい
※BL小説 一日の勤めを終えた椿は、手早く下の始末をした。たらいの湯を替えて、髪を洗う。長い情交のために崩れた髪が、地肌まで汗に汚れて何とも不快だったからだ。 昨夜相手をした客は、ここ半年ほど通ってくれている馴染みの客だ。鳶の仕事で金が入るとその足で来てくれるのはありがたいのだが、若くて体力のある男は何度でも椿を貪ったから、全身が重だるく、何度も貫かれいいように擦られた後孔が腫れてぴりぴりと痛んでいる。 明けの光が射し込む座敷で、洗い髪をざっと束ね、襦袢姿で手の中に握
※BL小説 伊織の目尻を仄かに色づかせていた朱が、顔全体を染めた。目のやり場がないように顔を背けた男の膝に手を掛ける。日頃の鍛錬が知れる、筋肉のよく引き締まった感触だった。 「朝まででなくても、ほんの少しの間、身体の力を抜いてわたしに任せていてくだされば、極楽に行ったような心持ちにして差し上げますよ」 もしもこれで何も感じないようなら、伊織は椿では駄目なのだ。 今まで感じたことのない気後れを押しやって、椿は身体を伊織に擦りつけるようにしながら、男の膝に置いていた手を身
※BL小説 座敷にはもう客が来ていた。 特別な時間を過ごすのだという期待感を持たせるために、あえて待ち合わせの刻限より遅れて着くのも計算のうちだ。舞台で見初めた美少年の到着を今か今かと待ちながら座敷で待つ、その時間が既に前戯なのだと教えられた。 襖の外側で三つ指をつき、禿が襖を開け放つと、椿は美しく結い上げた頭を下げた。簪の房がしゃらんと音をたてる。 「椿です」 「よく来た。そこは寒いだろう。早く火鉢に当たりなさい」 雪村伊織(ゆきむら いおり)の声は、凛と張って部
※BL小説です。性的な描写がありますので、興味のない方、18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。 菊蕾の中に己の指を入れ、客が注ぎ込んだものを出来る限り残さないよう、中を洗う。体を守るためには欠かせない手間だった。女と違って孕む気遣いだけはなかったが、病を貰えば薬も与えられずに野垂れ死ぬのを待つばかりの身だ。 椿(つばき)が陰間として客を取るようになってから、この冬でもう四年になる。 八つの頃、この一座へと売られて来た。禿(かむろ)として舞台子に仕え、唄や踊りの稽古や酒
※BL小説 あかりはブラコン気味のところがあって、付き合うようになってすぐに兄を紹介された。 「お兄ちゃんは友達づきあいもあまりしないで本ばっかり読んでいるから、渉と仲良くなってくれたら嬉しいな」 なんて言って、半ば強引に兄を同席させた。俺と兄が打ち解けると、とても嬉しそうな顔をしていた。 兄に甘えていたあの無邪気な笑顔が、こんな場所にしかたどり着かないなんて。ささいな日常の出来事の延長線上に待ち受けている悲劇を知ってさえいたら、俺は決してあかりの家に近づかなかったの
※BL小説 俺のせいであかりは死んだというのに、どうしてこの男は、俺の安否を気遣うのだろう。 ふと、背広を着ている男が、日中にこの場所にいる不自然さに気付いた。 「あんた、仕事中だったんじゃねえの」 「今日はあかりの月命日だ。そして、この雨だ。……きっと君はあの場所に行っただろうと思ったら、気になっていてもたってもいられなかった。気がついたら、ここに来ていた」 「……あんた、バカだろ」 あかりの兄の髪も、手に持っているアタッシェケースも背広の肩も、雨でどうしようもない
※BL小説 カーブの多い国道を走っていると、短いトンネルが連続する場所に差し掛かった。オレンジ色の灯りに照らされた、巨大なシリンダーの中に閉じこめられたような空間に、マシンの音が反響する。 三つ目のトンネルを抜けたところで、薄暗がりから一転して目を射る白い雨の光景の中に、ひときわ見通しの悪いカーブが現れる。 バイクを停車した時、水しぶきが上がって、路肩に着いた足が小さな水たまりの中に浸かった。 あの日もこんな風に、ガードレールや街路樹の輪郭が白く煙るほどの激しい雨だ
※BL小説 まるで桜の天井だ。無数の小さな花が、空を埋め尽くすように天に向かって開き、ひらりひらりと花弁をこぼしては、僕の座る地面に仄白い水玉を増やしていく。 優美に舞い落ちる花びらから想像されるのとは全く違う、ねじくれて節がこぶのように盛り上がった巨きな幹に触れてみた。ごつごつとした手触りは、老人の手足を思わせる。 桜で色を染めるには、花びらではなく蕾のふくらみ始めた若い小枝を使う。黒ずんだ枝から美しい桜色が煮出されることが、子供の頃にはとても不思議に思えた。 し
※BL小説 「お前の名は?」 「レネ」 「楡屋敷の者だな」 レネは驚いたように目を瞠った。 「僕の家をご存じなのですか」 「あの見事な春楡の木には、よく登ったものだ」 男の声に懐かしむような色が混じった。 「それなら、その屋敷はうちではありません。家のシンボルツリーだった大きな楡の木は、曾祖父が亡くなる前に落雷で倒れたそうです。曾祖父は生前その木をとても愛していて、倒れた楡で自分の棺を作らせたと聞いています」 男はしばらくそれについて考えているようだった。 「それで