健気で、儚い。
小学生だった頃の朝
登校班の列の中
あぁ秋になったんだなぁとうっとり
金木犀の香りを嗅いでいた
ここ他郷阿部家の箱庭には
銀木犀の木がある
お部屋から外へと続く廊下を渡るときに見える銀木犀は
きっと廊下の先に厠(かわや=現在のトイレ)があるから
この場所に植えられたのだろうと
この木を植えた阿部さんの気持ちが
手に届くようにわかる
この木が植えられた当時は
銀木犀が品種改良されてできた
金木犀はまだなく
香りが強い木といえば
銀木犀だったそうだ
樹齢100年はゆうに超える
時代とこの家、そしてここに住んでいた阿部さんの暮らしを見守ってきた
唯一の木である
10月頭。
その銀木犀の花が咲いた
花が咲いたことは金木犀よりも
少し控えめの香りをもって
知らせてくれた
その花が咲くのを目掛けて
この間阿部家にお泊りに来られた方が
銀木犀のお花見だけをしに阿部家に来てくれた
秋を感じるお菓子とお茶を注いで
一緒にお花見をした
銀木犀を見ながらその方は、
国語の教科書に載っているおはなし
「星の花が降るころに」の話をしてくれた
銀木犀の木から勇気をもらい、すれ違う思春期の女友達ふたりの心情の変化と淡い恋心を描写した物語らしい。
その方が
どうしてこの物語に銀木犀の木が出てくるんだろうと不思議に思って
銀木犀の花言葉を調べたら、
「初恋」
その儚さ、もどかしさが
銀木犀の花を見るとよくわかる
数日後、島根県上空を台風が通った
花は散った
銀色をした銀木犀の花は
本当に星の花みたいで、散っても
わたしの目を楽しませてくれている
健気で儚い
そのくらいがちょうどいいと
思わせてくれる
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